針を下ろした瞬間に1980年代の空気が部屋中に充満してきます。「フラッシュダンス」は1980年代を代表するという作品としては一、二を争う名作です。映画も大ヒットしましたし、このサウンドトラック・アルバムも2000万枚を越えるウルトラ・ヒットを記録しています。

 アルバムはもちろん全米1位を獲得していますが、ここ日本でも何と10週連続一位を記録しています。次にサウンドトラックが日本で一位となるのは「アナと雪の女王」、実に30年後のことです。当時を知る世代にとって、「フラッシュダンス」は時代の象徴なのです。

 アルバムからはアイリーン・キャラの歌う「フラッシュダンス~ホワット・ア・フィーリング」も全米チャートを制覇し、日本でも1位を獲得しました。1983年の全米年間チャートでもポリスの「見つめていたい」とマイケル・ジャクソンの「ビリー・ジーン」に次ぐ3位を記録しています。

 さらにマイケル・センベロの歌う「マニアック」も全米1位となっています。このサウンドトラックの成功は、翌年の「フットルース」につながっていくため、私などは両者が混線してしまっておりました。これもまた時代を象徴する作品であることの証しでしょう。

 映画は文句なしに面白いです。貧しい女性がダンスで夢をかなえていくというよくある話なのですが、こういうお話を傑作にするのがハリウッドです。終盤の主人公のダンスのシーンなどはお約束の展開ではありますが、鳥肌が立ちます。胸がすかっとしますよね。

 さて、このサウンドトラックですが、制作陣がとにかく豪華です。スコア作曲はジョルジョ・モロダー、編曲と指揮はシルヴェスター・ルヴェイ、音楽監修はフィル・ラモーンと、三人の有名なクリエイターが制作にあたっています。この三人の大物が組むことはかなり珍しい。

 一方、演奏陣はそれほどビッグネームが参加しているわけではありません。目立つのはモロダー人脈のドナ・サマーと前々年に「ベティ・デイビスの瞳」の大ヒットを放ったキム・カーンズくらいです。ローラ・ブラニガンもマイケル・センベロも活躍するのはこれ以降です。

 そうなんです。本作品はヒット曲を集めてきたサウンドトラックなのではなくて、この作品のために書かれた曲をさまざまなアーティストが演奏しているのです。典型は「甘い誘惑」のサイクルⅤでしょう。この企画のために結成されたモロダーとリヴェイを含む5人組です。

 ちなみにサイクルⅤのボーカルはエンジェルのフランク・ディミノでした。さらにそれっぽいのは「マンハント」を歌うカレン・カモン、ラモーン夫人なのでした。また、唯一のインストゥルメンタル曲である「愛のテーマ」を弾いているヘレン・セント・ジョンはモロダーの推しの模様です。

 各参加アーティストにとってみれば結果的にはタイアップによる巨大なプロモーションであったわけです。うまく次のキャリアにつなげたのがセンベロ、すでに「フェーム」を大ヒットさせていたにも係わらず、波に乗れなかったのがキャラ、人生模様です。

 ともあれ、「フラッシュダンス」は1980年代を象徴する巨大な作品です。80年代に青春を過ごした私などは、もはや往時を偲ばずにこの作品を聴くことは不可能です。この翌年にマハラジャが開店したことを思い出す人もいることでしょう。ダンス・ブームもここから?

Flashdance (OST) / Various Artists (1983 Casabranca)



Tracks:
01. Flashdance...What A Feeling (Irene Cara)
02. He's A Dream (Shandi)
03. Love Theme From Flashdance (Helen St. John)
04. Manhunt (Karen Kamon)
05. Lady, Lady, Lady (Joe Esposito)
06. Imagination (Laura Branigan)
07. Romeo (Donna Summer)
08. Seduce Me Tonight 甘い誘惑 (Cycle V)
09. I'll Be Here Where The Heart Is (Kim Carnes)
10. Maniac (Michael Sembello)