「クラウトロック大全」の著書もある小柳カヲル氏のレーベル、SUEZANスタジオからリリースされたV2シュナイダーのベスト・アルバム「冒涜」です。SUEZANってどう読むのでしょうね。ドイツ語だとズエサン、英語だとスーザンとなりそうですが、果たして。

 閑話休題。V2シュナイダーは、ドイツのミュージシャン、ユルゲン・シュヴァイクハルトによるプロジェクトです。芸名は、シュヴァイクハルトが最も重要なアルバムだと広言するデヴィッド・ボウイの「ヒーローズ」に収録されている名曲からとられています。

 もともとボウイはクラフトワークのフローリアン・シュナイダーに敬意を表してタイトルをつけたそうですから、巡り巡ってドイツに里帰りしたことになります。そもそも「ヒーローズ」自体がベルリン録音ですし、クラウトロックの影響を強く受けたものでした。

 シュヴァイクハルトは1980年代初めにバンド活動を始めており、ソロに転向した1981年から85年の間にカセットテープを中心にした数多くの作品を発表しています。その形態からも分かる通り、当時の作品はほとんどが長らく入手困難となっておりました。

 その後サンフランシスコに移ったシュヴァイクハルトは「よりオーケストラ的で詩的、時にエスノやハウス」な音楽を作り出すようになり、サンタナのドラマーやトーマス・ドルビーの一族、さらにはオペラ歌手と共演したり、TVショーのタイトル曲を作ったりと幅広い活動をしています。

 1998年に80年代の作品をデジタル化する試みを始め、5年かかって2003年にようやくアルバムとして発表すると、一部から熱狂的な支持されるようになります。気をよくしたシュヴァイクハルトは新たな名前で新作を発表し始め、2007年には旧名に復することとしました。

 本作品は、それ以降、V2シュナイダーとして発表された数々のアルバムからの曲を集めた日本独自のベスト盤です。2013年の「ネイティヴ・ミュート」に始まり、2022年の「タナトス」に至る7枚のアルバムが対象となっています。結構多作な人です。

 嬉しいことに、未発表曲も1曲含まれていますし、既発曲でもほとんどがリミックスされたりリマスターされているという気合の入った丁寧な作りになっています。1980年代に淵源を持つ曲もあって、カルトなV2シュナイダーを垣間見ることさえできます。

 とりわけ一曲目に収録された「ワイルド・ギアー」は、2003年にシングルとして復刻されてV2シュナイダーが注目されるきっかけとなった曲をリメイクしたものですから注目です。シンセ・ビートとドラムが同居する上に低音ボーカルが重なるまるでDAFのような曲です。

 ジャケット写真は若い頃のシュヴァイクハルト、サウンドは自身もその一員であった1980年代のノイエ・ドイッツェ・ヴェレが下敷きです。しかし、制作は2020年前後。この不思議な時間感覚がV2シュナイダーの魅力でしょう。日本語の女声などはまるでヴェイパー・ウェイヴ。

 ノイエ・ドイッツェ・ヴェレ、ドイツのニュー・ウェイヴらしい、少し野暮ったい録音までそのまま引きずっているようで、大そう面白いサウンドです。エレクトロニクスを基調とした、軽やかなダンス・ビートから禍々しいダークなアンビエントまで幅も広い。面白いです。

Blasphemy / V2 Schneider (2023 Suezan)



Tracks:
01. Wilde Gier 2020
02. Basement Pioneers
03. Hunging Season
04. Fire Love
05. Spider Talk
06. Infiltration
07. Kingdom
08. Mein Herz
09. Seven Sisters
10. Coins
11. Deceptive Calm
12. Dark Bells
13. Perseus
14. Galgensong
15. Endtitles

Personnel:
Jürgen Schweighart : all vocals, keyboards, programming
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Norbert Baumbauer : sax