1980年代の青春ムービー「プリティ・イン・ピンク」、邦題は「恋人たちの街角」のオリジナル・サウンドトラック・アルバムです。監督はハワード・ドイッチです。劇場用映画としてはこの作品がデビュー作となるドイッチはミュージック・ビデオの経験から抜擢されました。

 世はMTV時代です。本作品自体も「ミュージック・ビデオの大ブームや80年代第二次ブリティッシュ・インヴェイジョンの影響を直接受けた高感度な若者たちを取り巻いていた当時の時代の雰囲気を見事に切り取った傑作オムニバス・サントラ」です。

 映画は、二人の高校生、貧しい家庭に育った娘アンディと金持ちの息子ブレインの恋の物語です。何ともべたなお話ですが、それゆえにうまく描くと傑作になります。「プリティ・イン・ピンク」は見事に商業的な成功をおさめ、評判も上々で、青春映画の金字塔となりました。

 その成功にこのサウンドトラックが大きな役割を果たしました。そもそもアンディのバイト先がレコード店でしたから、ごくごく自然にさまざまな曲が流れる設定で、とにかく音楽にあふれた映画でした。サントラも映画スコアではなく、映画の中で使用された楽曲を集めました。

 アルバムには全部で10曲収録されており、いずれも名のあるアーティストによる楽曲です。まずはオーケストラル・マヌーヴァーズ・イン・ザ・ダークの「イフ・ユー・リーヴ」です。この曲は全米4位となる大ヒットを記録し、OMDの代表曲となりました。

 既発曲が多い中で、この曲はこの映画のために書き下ろされています。主人公がクライマックスとなるプロムに向かう場面で使用されており、映画全体を象徴する曲です。ここにOMDを選んだセンスは抜群です。OMDも見事に期待に応えました。

 一方、映画のタイトルと同名の曲「プリティ・イン・ピンク」はサイケデリック・ファーズの既発曲です。映画の主題歌に選ばれたことで、再録音されてシングルとしても再発しており、1981年のオリジナル・シングルよりも大きなヒットを記録しました。

 書き下ろしでは、スザンヌ・ヴェガの「レフト・オブ・センター」もそうです。ジョー・ジャクソンをピアノにフィーチャーしており、これもシングル・ヒットしています。再録音ではエコー&ザ・バニーメンの「ダンシング・ホーシズ」が新バージョンでの収録となっています。

 単純に既発曲の中から適当なものを選んだというサントラではなく、映画とアーティストとの間に麗しい交感があります。そこにサントラとしての矜持もあって、他のヒット曲集的なサントラと一線を画す結果につながったのでしょう。ベスト・サントラ企画に名を連ねる所以です。

 収録された曲は英国のニュー・ウェイヴ勢が中心です。先に挙げた他にもニュー・オーダーやベルイー・サム、そしてザ・スミス。オーストラリアのINXSも同時期のアーティストで、ファンクのザ・タイム、スリー・ドッグ・ナイトのダニー・ハットンが例外となりますか。

 劇中に使われたオーティス・レディングなどは収録されておらず、サントラとしてのまとまりが増しています。ここでのサウンドは1980年代半ばの音楽シーンを象徴しており、全曲アーティストは違いますが、統一感にあふれています。大変面白い作品です。

Pretty in Pink (Original Soundtrack) (1986 A&M)



Tracks:
01. If You Leave (Orchestral Manoeuvres In The Dark)
02. Left Of Center (Suzanne Vega)
03. Get To Know Ya (Jesse Johnson)
04. Do Wot You Do (INXS)
05. Pretty In Pink (The Psychedelic Furs)
06. Shell-Shock (New Order)
07. Round, Round (Belouis Some)
08. Wouldn't It Be Good (Danny Hutton Hitters)
09. Bring On the Dancing Horses (Echo & The Bunnymen)
10. Please Please Please Let Me Get What I Want (The Smiths)