驚くべきことに風船がおまけについています。もともとドイツの新興レーベルだったオールから出された最初の5作品には風船がつけられていました。それを紙ジャケCD発売にあたって、我が国の誇るアルカンジェロさんが復刻してくれました。英断に乾杯したいと思います。

 それにしてもなんで風船だったんでしょう。最初の5作品ということですからレーベル設立記念なんでしょうか。それ以外には何の脈絡も考えられません。面白いことです。しかもジャケットには切り込みがあって、ちゃんと風船を装着するようになっています。

 ジャーマン・プログレの代表格タンジェリン・ドリームの記念すべきデビュー作品です。しかも、なお凄いのはそのメンバーです。タンジェリンの主エドガー・フローゼ、「エレクトロニクスの教祖」クラウス・シュルツ並びに音響彫刻王コンラッド・シュニッツラーの三人です。

 これはこの作品かぎりのメンバー構成です。この三人がこれ以降発表する作品の数たるや膨大なものがあり、まさにジャーマン・プログレといいますか、クラウトロックの太い太い幹を構成します。本作品はこの三人が奇跡的に共演した作品として燦然と輝きを放っています。

 クラウトロック黎明期に出会った3人は、1969年10月頃から、ベルリンでアルバムのレコーディングを開始します。簡単な機材しかない、古い工場の一角を改造して作られたスタジオで、この実験的な名作「エレクトロニック・メディテーション」が誕生しました。

 レコーディングは、フローゼがギターとオルガン、ピアノ、シュニッツラーがチェロ、ヴァイオリン、ギター、シュルツェがドラムとパーカッションを演奏し、それをさまざまに電気的なエフェクトをかけていきます。記載はありませんが、オルガンとフルート奏者も参加しているそうです。

 アルバム・タイトルにはエレクトロニックと入っていますが、楽器自体は普通の楽器ばかりです。要するにシンセサイザー登場前の作品です。いかにも衝動任せの即興演奏が繰り広げられていて、サイケデリックでもあります。ピンク・フロイドの初期に近いかもしれません。

 同時期にシュニッツラーが中心になって活動していたKのクラスターと比べると、こちらはとても音楽的です。シュルツェのドラムは比較的きっちりしていますし、何といってもフローゼのギターがロック全開です。ジミヘン的なサイケ・ギターにロックを感じます。

 もともとフローゼはハード・ロックのバンドでギターを弾いていた人ですから、その出自がもろに出ています。フローゼとシュルツェの二人に非音楽家のシュニッツラーが加わることで、得も言われぬバランスが生じている、そういう種類のサウンドです。

 ただし、このトリオは長続きしません。音楽家の二人にとって、シュニッツラーの存在は、ある意味で演奏を邪魔をしているということにもなります。それは長続きしないでしょう。この作品がぎりぎりのバランスの上に立っていた奇跡の作品である訳です。

 なお、日本盤には「冥想の河に伏して」という邦題がつけられていました。あまり冥想に向いているとも思えませんが、気合は伝わります。その後のタンジェリン・ドリームのサウンドと何とか脈絡を付けようとするレコード会社の試みだったのだと思います。

Electronic Meditation / Tangerine Dream (1970 Ohr)

*2013年10月1日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Genesis
02. Journey Through A Burning Brain
03. Cold Smoke
04. Ashes To Ashes
05. Resurrection

Personnel:
Edgar Froese : guitar, organ, piano, effects
Conrad Schnitzler : cello, violin, guitar, effects
Klaus Schulze : drums, percussion, effects