「ロミオとジュリエット」は何度も映画化されていますが、この1968年版に敵う作品はないでしょう。ロミオに当時16歳のレナード・ホワイティング、ジュリエットに15歳のオリビア・ハッセイという極めてフレッシュなコンビが主演に当てられました。冒険は大成功です。

 スクリーンで見た時には、まだ私の方が子どもでしたから、15歳といえばまあ大人です。当時は何の違和感もありませんでしたが、長じてから二人の年齢を改めて知って、驚いたものです。中高生くらいの年齢だったとは。西洋人は大人びていますね。

 本作品はその1968年版「ロミオとジュリエット」のオリジナル・サウンドトラックです。音楽を担当したのはニーノ・ロータで、本作品はロータの代表作に数えられています。特に、歌曲「ホワット・イズ・ア・ユース」のメロディーを知らない人はいないのではないでしょうか。

 原題を挙げてみましたが、「ロミオとジュリエット愛のテーマ」の名前の方が有名です。ヘンリー・マンシーニがアレンジを施して録音したインストゥルメンタル曲は、1969年には全米1位を記録しています。1969年です。ビートルズやストーンズが競合相手です。

 日本ではオリジナルの方が「愛のテーマ」として人気があり、シングル盤が1968年から1年以上もチャート入りするロングセラーとなっています。今でも耳を澄ますとどこかから聴こえてくることがあります。ロミジュリを知らない人でも、このメロディーには聴き憶えがあるはずです。

 ヒットしたのはシングルです。なるほどなと思います。と言いますのも、ご紹介する作品はアルバムなのですが、サウンドトラック・アルバムと聞いて思い浮かべる形とは異なり、ほぼ全編に台詞が入っています。こちらの方が真正サウンドトラックだと言えるかもしれません。

 したがって、音楽はまさに台詞のバックグラウンド・ミュージックとなっており、唯一と言っていいまとまった楽曲が「愛のテーマ」です。もちろん台詞の背景に流れる音楽もニーノ・ロータらしく、なかなか素敵なのですがいわゆる曲としてまとまっているわけではありません。

 「ロミオとジュリエット」はご案内の通り、シェイクスピアの名作です。ここで若い二人が話している台詞はほぼシェイクスピアの原文をなぞっています。演劇ではありませんから、声を張る必要もなく、ベッドでの親密な会話などは映画ならではの醍醐味が味わえます。

 この会話劇が素晴らしい。普通の映画で台詞入りとなると疑問符がつきますけれども、そこは天下のシェイクスピアです。二人が愛を語る「バルコニー・シーン」や「別れのラヴ・シーン」の台詞など、まあ何度読んでも素晴らしい。英語の底力を感じます。

 ラップではありませんし、まだ演技経験も少ない二人の会話ですけれども、まるで音楽のようです。これをニーノ・ロータが指揮をするオーケストラの演奏が絶妙に支えています。サウンドトラックとしてこれ以上ない作品になっています。また映画が見たくなりました。

 よしなしごとを加えておきますと、当時の日本の若者をその気高さで魅了したオリビア・ハッセイが布施明と結婚したときには本当に驚きました。ハッセイはジュリエットそのものでしたから、「日本人と結婚したんだ」という前に「この世に実在したんだ」という驚きがまず...。

Romeo & Juliet / Nino Rota (1968 Capitol)



Tracks:
01. Prologue
02. The Feast At The House Of Capulet キャピュレット家の祝宴
03. The Balcony Scene
04. Romeo & Juliet Are Wed ロミオとジュリエットの結婚
05. The Death Of Mercutio And Tybalt マーキューショとティボルトの死
06. Farewell Love Scene
07. The Likeness Of Death 仮死
08. In Capulet's Tomb キャピュレット家の墓にて
09. All Are Punished

Personnel:
Nino Rota : conductor
Glen Weston : vocal