題して「ディーペスト・パープル」、粋なタイトルがついたディープ・パープルのベスト・アルバムです。ディープ・パープルが解散してから4年もたって発売されましたけれども、英国では見事にチャートを制しました。ベスト盤に弱い英国チャートとはいえ快挙です。

 1980年といえば、すでにパンクの衝撃は去っており、不遇を強いられていたメタル界にも、ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィメタルのブームが到来していました。そんな折り、ハード・ロックの帝王ディープ・パープルの復活を渇望する声は強かったのです。

 その声にこたえるように、まずはこのベスト・アルバムです。第二期と第三期からのみの選曲と分かりやすいです。第二期の英国でのブレイクのきっかけとなったシングル曲「ブラック・ナイト」から、第三期の最後のアルバムのタイトル曲「嵐の使者」まで全部で12曲です。

 この時期のディープ・パープルは英国流ハード・ロックを作り上げた時期にあたります。「ハイウェイ・スター」に「スモーク・オン・ザ・ウォーター」、「チャイルド・イン・タイム」に「スピード・キング」、「バーン」などなど、ディープ・パープルを代表する曲が目白押しです。

 プログレ的な第一期とファンキーな第四期が思い切って省かれているわけですが、これは英断であろうと思います。並べて聴きたいとは思いませんからね。しかし、CD化に際して、1曲ずつ追加されました。このアルバムの趣旨が台無しですね。

 本作品はレコードとしては異例の60分越えの長尺でしたから、全体に音量を抑えるという荒業が採用されています。私はむしろ第三期の2曲もカットして、そんな無茶をしなくても良かったのではないかと思ってしまいます。どちらも大名曲ではありますが。

 いずれにせよ、ディープ・パープルと聞いて思い浮かべるサウンドはここに過不足なく盛られています。彼らのアルバムは意外にバラエティに富んでいるので、こうして代表曲を抜き出したベスト・アルバムの方が、まとまっているように聴こえます。

 その意味では、多くの人がディープ・パープルから一枚と言われればこのアルバムを挙げるのではないでしょうか。私は第一期も大好きなのですが、ディープ・パープルを聴いたことがない人に勧めるとするならばこのアルバムを迷いなく選びます。

 ディープ・パープルというバンドはどこか気やすい存在でした。レッド・ツェッペリンやブラック・サバスなどが異次元の近寄りがたい存在であったのに対し、ディープ・パープルは手が届きそうな気がしたものです。あちら側ではなくこちら側にいてくれる偉大なバンド。

 言うなればディープ・パープルは全世界のアマチュア・バンドが目指す先に君臨するバンドです。そもそもパープルを支持するファンにはバンドをやっている人が多い気がします。だれもが最初に弾いた「スモーク・オン・ザ・ウォーター」を与えてくれた恩義を誰も忘れません。

 ディープ・パープルの魅力はその身近さにある気がいたします。当時の若者は楽器のできない者でもエアギターでパープルをコピーしたものです。この作品で当時の思いを再認識した人も多かったのでしょう、4年後にディープ・パープルはめでたく再結成することになります。

Deepest Purple / Deep Purple (1980 Harvest)



Tracks:
01. Black Night
02. Speed King
03. Fireball
04. Strange Kind Of Woman
05. Child In Time
06. Woman From Tokyo
07. Highway Star
08. Space Truckin
09. Burn
10. Stormbringer
11. Demon's Eye
12. Smoke On The Water

Personnel:
Ian Gillan : vocal
Ritchie Blackmore : guitar
Roger Glover : bass
Jon Lord : organ, keyboards
Ian Paice : drums, percussion
David Coverdale : vocal
Glenn Hughs : bass, vocal