リリエンタールは1976年初頭に6日間だけドイツのスタジオに存在したバンドです。すでにその名を轟かせていたアーティストが集結したいわゆるスーパーグループの一つです。ライヴの計画もなく、6日間のレコーディング・セッションだけで活動が完結しました。

 本作品はその6日間の成果をまとめた最初にして最後のアルバムです。セルフ・タイトルのアルバムですが、日本盤ではグライダーで空を飛んだオットー・リリエンタールの名前に引きずられて、「未知への飛翔」と付けられました。ただ、バンド名の由来は不詳ではあります。

 この当時、すでにドイツのプログレ界に大きな足跡を残していたクラスターの二人は、それぞれが精力的に独自の活動を行うようになっていました。その際、ローデリウスがソロでの活動に力を注いだのに対し、メビウスの方は他のアーティストとのコラボを重視していました。

 リリエンタールはそんなディーター・メビウスのプロジェクトです。アイデアはメビウスと、しばしば共演していたアスムス・ティーチェンスによって形作られ、二人はマルチ楽器奏者のオッコー・ベッカーとともにクラウトロックの重鎮コニー・プランクのスタジオに入ります。

 ここにちょうどプランクのスタジオでアルバムを制作し終えたばかりのジャズ・ロック・バンド、クラーンから、ベースのヘルムート・ハトラーとサックスの他にドラムやベースもできるヨハネス・パッペルトの二人が加わりました。プランクを加えた6人でリリエンタールの誕生です。

 プランクのスタジオは次の予約が入っていたため、リリエンタールが使える時間はわずかに6日間です。この時点で、曲が用意されていたどころか、何か具体的な音楽のプランさえなかったのだそうです。リリエンタールはまるで何もない状態でスタジオ入りしたのです。

 ティーチェンスは、「ほんの数時間のうちに、奇跡が起こりつつあるように思いました。各自のアイデアが素早く、そして美しく融合し、混乱や行き詰まりからはるか遠く離れたバンドの音楽が生まれていました」と興奮気味に当時を思い出しています。

 バンドは、毎日、12時間から14時間もぶっ続けにスタジオで作業して、一日一曲ずつ仕上げていきました。本作品にはそれぞれの曲が時系列で配列されています。なお、クラーンからの参加は前半はハトラー、後半はパッペルトが中心になっているようです。

 電子音楽を追求したクラスターのメビウスですが、ここではクラーン組やベッカーなどの器楽奏者と共演しているところが特徴的です。ティーチェンスのピアノ、さらにはプランクやメビウス、ベッカーのギター、パッペルトのサックスなど生楽器のサウンドが美しいです。

 もちろん電子音も大活躍しています。メビウスらしい幾何学的なサウンドと、生楽器によるジャジーな雰囲気が妙にマッチしており、冴えわたるプランクのスタジオワークによって、見事なサウンドが紡ぎだされています。異色のムード曲「ナックセゾン」など傑作です。

 本作品はブレイン・レーベルから2年遅れで発表されました。レーベル側が売り方が分からなかったことが原因だそうです。確かにブレインが得意とする実験的な電子音楽でもなく、かといってポピュラーな音楽でもない。孤高の位置にあるコレクティブ・ミュージックです。

Liliental / Liliental (1978 Brain)



Tracks:
01. Stresemannstraße
02. Adel
03. Wattwurm
04. Vielharmonie
05. Gebremster Schaum
06. Nachsaison

Personnel:
Moebius : arp, guitar, percussion
Asmus Tietchens : moog, grand piano
Okko Bekker : arp, keyboards, percussion, vocal, singing saw, guitar
Conny Plank : arp, guitar, vocal
Johannes Pappert : alto sax, drums, bass, flute
Helmut Hattler : bass