このアルバム・ジャケットを前にすると、どうも昔からレインボウのアルバムと混同してしまいます。ディープ・パープルのメンバーはみんな天翔けることが大好きです。本作品はディープ・パープルの「嵐の使者」です。日本流にいえば「嵐を呼ぶ男」、石原裕次郎です。

 「嵐の使者」は第三期ディープ・パープル最後のスタジオ・アルバムとなってしまいました。彼らのお家芸たるお家騒動も次第にサイクルが早まってきました。このアルバムを最後に、なんと大黒柱の一人、リッチー・ブラックモアが脱退してしまったんです。

 本作品を制作する時期にはすでにブラックモアは後にレインボーとなるバンドでレコーディングをするなどしていたこともあり、彼の出番は少なくなってしまいました。その分、デヴィッド・カヴァーデルとグレン・ヒューズの新参組の嗜好が色濃く反映されています。

 そんなこんなで、当然、発表直後のメンバーによる評価は大変低く、メディアでの受けも芳しくはありませんでした。そのため、駄作扱いされることも多かったと記憶しています。しかし、バンド内のごたごたが遠い昔になった今、改めてこの作品を評価する声は大きい。

 発表当時、ディープ・パープルらしさとは、すなわち「ハイウェイスター」や「スモーク・オン・ザ・ウォーター」のことでしたから、このアルバムなどは、まさにパープルらしくない、と一刀両断されていました。「ハイウェイスター」が入っていないと怒っているようなもんです。

 確かに、ソウル好きのカヴァーデルとヒューズが中心となった楽曲はこれまで培ってきたクラシカル要素を織り込んだハード・ロック路線とは世界観が違うように思えます。とはいえ、第一期からこれまでの振れ幅を考えると、このアルバムなどはパープルらしいとも言えます。

 この頃、ブラックモアはルネッサンス期の音楽に目覚め、そんな音楽ばかりを聴いていたそうです。その成果が、アルバムのラストを飾る「幸運な兵士」です。カヴァーデルの粘っこいボーカルが映える佳曲にはルネッサンスの音階が使われているとのことです。

 そして、この曲はとても第一期っぽいです。「詩人タリエシンの世界」です。また、ブラックモアのギターが活躍する「嵐の女」は第二期っぽい。そこに「幸運の兵士」収録に反対するメンバーに妥協してソウル/ファンク・チューンが加わるというキャリアを俯瞰した内容です。

 制作過程は結構ぐだぐだだったそうですし、メンバーの関係はぎくしゃくしていた模様ですが、もともとディープ・パープルはそういうバンドです。そんな状態だからこそ、こういう味わい深いアルバムが出来るのが彼らの特徴であるともいえます。

 この当時、ブリティッシュ・ロック界の話題は税金でした。高額所得者への課税率が90%を越えていたため、多くのスターが海外に移住します。日本だとなかなかそうはなりませんが、ヨーロッパ人は国境を越えることに躊躇がありません。

 ディープ・パープルも例外ではなく、メンバーはぞくぞくと海外に移住していきます。これがバラバラ状態に拍車をかけていきますが、それはまた次の話。本作品は一大傑作とは言えないでしょうが、これはこれで素敵なパープル節を堪能できる作品です。

Stormbringer / Deep Purple (1974 Purple)

*2014年6月18日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Stormbringer 嵐の使者
02. Love Don't Mean A Thing 愛は何よりも強く
03. Holy Man 聖人
04. Hold On
05. Lady Double Dealer 嵐の女
06. You Can't Do It Right (With The One You Love)
07. High Ball Shooter
08. The Gypsy
09. Soldier Of Fortune 幸運な兵士

Personnel:
David Coverdale : vocal
Ritchie Blackmore : guitar
Jon Lord : keyboards, chorus
Glenn Hughes : bass, vocal
Ian Paice : drums, percussion