思わず居住まいを正してしまう見事な顔ですね。何の疑いもなくタイガーマスクとしてしまいました。全般にヒップホップにはどこかプロレスを思わせる佇まいがあります。本作品もタイガーマスクにふさわしい雄々しさといかがわしさを兼ね備えた作品です。
本作品はエル・ミシェルズ・アフェアーとブラック・ソートのコラボレーション作品「グローリアス・ゲーム」です。２０２０年、コロナ禍の真っ最中にコラボが始まり２０２３年に発表されました。その意味ではこれもまたＣＯＶＩＤの落とし子の一つであるわけです。
エル・ミシェルズ・アフェアーはレオン・ミシェルズが率いるグループで、そのサウンドは映画的ソウル、シネマティック・ソウルと称されています。１０人ほどのバンド・メンバーはいずれも器楽奏者であり、そのアナログ・サウンドがグループの特徴です。
これまでにウータン・クランの名曲をカバーしたアルバムを発表したりしていますし、ミシェルズはジェイＺを始め、さまざまなアーティストに曲を提供したりもしており、ヒップホップ界では注目のアーティストであるといえます。なんたってシネマティック・ソウルです。
一方のブラック・ソートは、生音ヒップホップバンドの代表ともされるザ・ルーツの結成メンバーとして知られるラッパーです。そのラップのスキルは極めて高く評価されており、ヒップホップ界を代表するＭＣの一人となっており、映画やミュージカルにまで引っ張りだこの人です。
ラッパーには珍しく、コラボレーションを避ける傾向があったと言われるブラック・ソートですから、そのコラボ相手は厳選されたアーティストとなるはずです。エル・ミシェルズ・アフェアーはまさにそのお眼鏡にかなったのでしょう。生音ヒップホップという点では同じですし。
ブラック・ソートはここではプロデュースをミシェルズにまかせており、演奏陣もエル・ミシェルズ・アフェアーを中心にミシェルズ人脈で固められています。フィーチャリング・アーティストもカービー、サン・リトル、ブレインストーリーの３組だけと少なめです。
冒頭の「グレイトフル」にはシャバ・ランクスの楽曲がサンプリングされていますが、そうしたサンプリングもあまり目立ちません。サウンドの核となっているのはブラック・ソートのラップと生楽器が生み出すゆったりとした生のグルーヴです。猛烈にかっこいいです。
ベースやドラムによるリズムは自由自在で、同じ曲の中で同じリズムなのに速度が変化したりするところなど鳥肌が立ちます。ギターやホーンのサウンドもとても繊細で、リラックスしていながら、次第に高まっていくサウンドにはうっとりとしてしまいますね。
エル・ミシェルズ・アフェアーのサウンドがシネマティック・ソウルと呼ばれる所以は本作品を聴いただけでも分かる気がします。サウンドのテキスチャーがニュアンスに富んでいて、幾重にも情報が折りたたまれている感覚が映画に通じます。とにかく凄い演奏です。
Glorious Game / El Michels Affair & Black Thought (2023 Big Crown)
Tracks:
01. Grateful
02. Glorious Game feat. Kirby
03. I'm Still Somehow
04. Hollow Way
05. Protocol feat. Son Little
06. The Weather
07. That Girl
08. I Would Never
09. Alone
10. Miracle
11. Glorious Game (reprise)
12. Alter Ego feat. Brainstory
Personnel:
Black Thought : rap
Leon Michels : drums, bass, guitar, keyboards, flute, sax, percussion, vocal
Nick Movshon : drums, bass
Homer Steinweiss : drums
Paul Spring : guitar
Kevin Martin : vocal
Tony Martin : bass
Eric Hagstrom : drums
Paul Castelluzzo : guitar, keyboards
Dave Guy : trumpet
Marco Benevento : keyboards
Lady Wray : vocal
Big Tony Martin : vocal