オブスキュア・レーベルから発表された第一バッチ4作品の掉尾を飾るアルバム「ニュー・アンド・リディスカバード・ミュージカル・インストゥルメンツ」です。この作品は、マックス・イーストリーとデヴィッド・トゥープによるスプリット・アルバムになっています。

 アルバム・タイトルの「新しい、もしくは再発見された楽器」は、トゥープが監修した書籍の題名です。その本にはトゥープの他にイーストリーも寄稿しています。二人は本作品にてまさに自作の楽器などを用いて新たな音響を追求していますから、タイトルには納得です。

 イーストリーとトゥープはともにアート・スクール出身でポピュラー音楽の畑で活動をスタートさせ、その後、ソノリティを追求する方向に転じたという点で共通しています。二人で活動を共にすることもあり、ブライアン・イーノは二人が演奏者となるライヴを見に行っています。

 その演奏会でイーノは心地よく眠ることが出来たそうで、そのことが二人への作品制作のオファーにつながりました。イーノくらいになると音楽を聴いて眠れるというのは最大の誉め言葉になるんだそうです。つまらない音楽だといらいらしてとても眠れない。

 A面はイーストリーです。全四曲の曲名には使われた自作楽器の名前が付けられています。最初の「ハイドロフォン」は弦を張ってつなげた二枚の板の一方を川の流れに浸して、水の動力で音が鳴るという仕組みです。ウェールズでフィールド録音されました。

 これだと人力は一切演奏に関わりません。せせらぎをバックにハイドロフォンが柔らかに響きます。2曲目と3曲目はスタジオに設置された自作の楽器をイーノもしくはイーストリーが鳴らします。楽器というよりも音響装置なので、演奏という言葉は合いません。

 4曲目はそのコラボで、今度は風で音が鳴る「エアロフォン」と3曲目で使用された音響装置「セントリフォン」が語り合います。そこはかとなく人力を交えつつも、自然が奏でるリズムを最大限に生かした素敵な音響作品です。A面を通して「音」の豊かさに目を見張ります。

 対してB面のトゥープはより音楽的です。1曲目はトゥープ自身のボーカルとイーノを含むコーラスによる楽曲ですし、3曲目もトゥープのボーカルと自作したさまざまなフルートによる楽曲です。最後はフルートを水の中に突っ込んでの演奏を聴かせます。

 B面の中心は2曲目の「ホッキョククジラの予言」です。クジラの発する低周波音に刺激を受けて制作された曲で、日本のお寺の鐘が活躍します。曲中、鐘が鳴らされると、その共鳴音が消えるまで他の音を鳴らさず、余韻に浸る構造になっています。

 演奏にはプリペアード・ギターや自作の打楽器などが使われており、ソノリティの面でもきわめて斬新です。日本の鐘ではありますが、トゥープは韓国の宮廷音楽の影響に言及しています。鐘の音が消えゆくさまには、確かに東アジアの香りが漂ってきます。

 いずれも従来の楽器の枠を超えて新たなサウンドを求めた楽曲ばかりです。オブスキュア・シリーズの中でも特異な位置を占める作品で、結果的には後の音楽に与えた影響という点ではシリーズ中で最も大きなものがあるとも言われています。静かですが熱い実験作です。

New and Rediscovered Musical Instruments / Max Eastley, David Toop (1975 Obscure)



Tracks:
Max Eastley
01. Hydrophone
02. Metallophone
03. The Centriphone
04. Elastic Aerophone / Centriphone
David Toop
05. Do The Bathosphere
06. The Divination Of The Bowhead Whale
07. The Chairs Story

Personnel:
Max Eastley
David Toop : voice, prepared electric guitar, bowed chordophone
Frank Perry : 3 Japanese resting bells
Paul Burwell : 3 bass drums, large lorry hub, 2 string fiddle
Brian Eno : voice, prepared bass guitar
Hugh Davies : grill harp
Chris Munro, Phil Jones : voice