クラウトロックを代表するバンド、カンのライヴ・シリーズ第一弾です。1975年のドイツ、シュトゥットガルトでのライヴの模様を丸ごと収録した「ライヴ・イン・シュトゥットガルト1975」で、CDにして2枚組、約90分にわたるカンのライヴ演奏が堪能できます。

 コンサートの日付は書いてありませんが、おそらくはハロウィーンのステージではないかと言われています。スタジオ作品でいえば「ランデッド」が発売された直後、ボーカリストが抜けて当初から一緒に活動している4人組に戻っていた時代です。

 カンはもともとライヴ盤をほとんど発表していませんでしたが、そのライヴ自体は大いに定評がありました。スタジオ作品を複製するのではなく、毎回、まるで新しいサウンドを即興で奏でていくわけで、「ツアーでは毎晩2枚組の偉大な新作を作っていた」と評されています。

 とはいえカンはフランク・ザッパ先生のように夜ごとのステージを録音していたわけではありません。また、グレイトフル・デッドのようにデッドヘッズと称されるファンに録音することを公認し奨励していたわけでもありません。しかし、半ば公認されていたファンが一人います。

 それがアンドリュー・ホールという英国人です。カンに魅せられたホールは何とかそのライヴ音源を手に入れようとしますが、これが難しい。ならば自分で録音するかと、だぶだぶの服の中にカセット録音機を抱え込み、袖の部分にマイクを仕込んで録音を始めます。

 ホールの録音は1973年2月から始まりますが、1975年2月の英国公演の際、カンのサウンド・エンジニアだったレネ・ティナーに声をかけられ、以降、サウンドコンソール近くの場所を使うように便宜が図られました。その熱意にほだされて半ば公認したわけですね。

 ホールは自ら録音した音源の他にも、多くのファンが密かに録音していたテープを収集しており、そのコレクションは膨大なものとなっていました。これを今になってカンのイルミン・シュミットが精選して修復作業を施して公式に発表したのが本作品から始まるシリーズです。

 このライヴはドイツで行われているので、ホール自身が録音したのかどうか定かではありませんけれども、修復作業のおかげもあって、見事な音質でよみがえっています。シュミットは一つのコンサートを丸ごと復刻することにこだわっており、それが見事に果たされています。

 収録された楽曲は5曲で、それぞれが「シュトゥットガルト75」に連番を付した曲名がつけられています。中にはそこはかとなくスタジオ作品に収録された楽曲からの引用もあるのですが、まるごとそれと分かるものはなく、議論の末にこの曲名に落ち着いたとのことです。

 それぞれが即興で演奏されているわけですが、この頃のスタジオ作品よりも初期の混沌とした作品の頃の雰囲気に近いです。ヤキ・リーベツァイトのさまざまなパターンのメトロノーム・ドラムとホルガー・シューカイのぶんぶんベースが低音で響き渡るんです。

 そこに実に多彩なミヒャエル・カローリのギターとシュミットのシンセやキーボードが絡みついていきます。ファンキーな面もありますし、ジャズ的なところもありますが、基本はロック。ロックのグルーヴ感がとにかく素晴らしい90分です。カンの入門編としても最高でしょう。

Live in Stuttgart 1975 / Can (2021 Spoon)



Tracks:
(disc one)
01. Stuttgart 75 Eins
02. Stuttgart 75 Zwei
03. Stuttgart 75 Drei
(disc two)
01. Stuttgart 75 Vier
02. Stuttgart 75 Fünf

Personnel:
Irmin Schmidt : keyboard, synthesizer
Jaki Liebezeit : drums
Michael Karoli : guitar
Holger Czukay : bass