ラシュモア山にある歴代大統領の彫刻を模すとは良い根性です。ディープ・パープルはこの頃はまだイギリス本国では鳴かず飛ばずだったのに、心構えはすでにスーパースターです。やはり、スターになる人はそれくらいの根性がないといけません。

 みんながハード・ロックの帝王ディープ・パープルと聞いて思い浮かぶ音はこのアルバムからの彼らです。シンプルに「イン・ロック」と題していて、オーケストラと一緒に演奏したりしているからといっても際物バンドじゃないのだという自負が現れています。

 気合が入った作品でしたから、期待に違わぬ売れ行きで全英4位と大ヒットしたことはメンバーにとって大きな自信になったことでしょう。アルバムには未収録ですが、同時期に発表されたシングル「ブラック・ナイト」の大ヒットとともに本作がパープルをスターにしました。

 ちなみに「ブラック・ナイト」は日本でもハードなロック作品としては異例の大ヒットとなりました。ディープ・パープルは日本でやたらと人気のあるバンドなんですね。英米に比べると、日本にはハード・ロックに比較優位があるということなのでしょう。

 時代はハード・ロック黎明期です。本作品のサウンドはかなり明快にハード・ロックになりました。もちろん仔細に聴いてみると第一期との連続性はありますが、アルバムから受ける第一印象は全く異なっています。何でそんなに違うことになったのでしょうか。

 まず、ボーカルが違います。本作のボーカルはハード・ロック界を代表するボーカリスト、イアン・ギランです。彼のボーカル・スタイルはまさにハード・ロック、後のヘビー・メタルそのものです。そしてギター、リッチー・ブラックモアのギターはより明快になり、自由闊達になりました。

 ジョン・ロードのクラシック趣味は並行して行われている更なるオケとの共演の方に押し込められ、ここでは程よいアクセント程度になっています。前に出過ぎていない。さらに、実は新加入のベーシスト、ロジャー・グローヴァーの作曲能力も大きかった。

 この作品には、後々までクラシックとなる「スピード・キング」と「チャイルド・イン・タイム」が登場しました。この二曲は、メンバー交代直後に行われた実験セッションの賜物のようです。交代後の最初期に手掛けた曲ということで、気合が入っていました。

 「チャイルド・イン・タイム」はサンフランシスコのサイケ・バンド、イッツ・ア・ビューティフル・デイの曲をロードがいじりまわし、ギランがヴォーカルをつけたりして出来た曲です。ついでに「ブラック・ナイト」は酔っぱらった時に作った曲なのだそうです。

 この頃の彼らはツアーに明け暮れていて、制作は忙しいツアーの合間を縫って行われたため、かなり長い時間がかかりました。とはいえ、大きなメンバー交代があったにもかかわらず、直前のスタジオ作からはわずか1年で発表されています。

 ともあれ、ディープ・パープルは自らの歩むべき道を見出しました。自信に満ちた揺るぎない作品が出来たということだと思います。レッド・ツェッペリンの影響もあるのでしょうが、リフを主体としたハードにドライブするロックは、日本好みの端正さを加えて、独自の音となりました。

Deep Purple in Rock / Deep Purple (1970 Harvest)

*2014年6月9日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Speed King
02. Bloodsucker
03. Child In Time
04. Flight Of The Rat
05. Into The Fire
06. Living Wreck
07. Hard Lovin' Man

Personnel:
Ritchie Blackmore : guitar
Ian Gillan : vocal
Roger Glover : bass
Jon Lord : keyboards
Ian Paice : drums