長く活躍しているバンドには、その歴史から抹消される作品というものがあります。ディープ・パープルの場合は、この作品がそれに該当します。多くのパープル・ファンが無かったことにしていました。パープルが過去のバンドになった後では再評価されているようですが。

 この作品は、ディープ・パープルがロンドンのロイヤル・アルバート・ホールにて、現代英国を代表する作曲家の一人マルコム・アーノルドが指揮するロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラと共演した作品です。しかも一夜限りのライヴで、本作品はそれを録音したものです。

 今ではオーケストラとの共演など珍しくもありませんが、当時のロック界では画期的なことでした。キース・エマーソンのナイスがすでに共演を果たしていましたが、ライブでの共演はこの作品が恐らく初めてであろうと言われています。どうやらBBC主導のようですね。

 EL&Pのキース・エマーソン、イエスのリック・ウェイクマン、そしてディープ・パープルのジョン・ロードが、ロック界三大クラシック寄りキーボード奏者であろうと思います。ジョン・ロードはその中でも筋金入りのクラシック野郎ではないでしょうか。

 この作品では、ロードが作曲した協奏曲をパープルの面々とオーケストラが見事に共演しています。第三楽章まである本格的なクラシック仕様の協奏曲です。ロック・バンドのロック曲にオーケストレーションを施したという体ではありません。

 むしろ、クラシック曲を作曲して、その一部をロック・バンドが演奏しているという形です。ただ、そのロック・パート自体はまるでロックで、第二楽章ではイアン・ギランが歌っています。とはいえ、やはりコンチェルトですからね。基本はクラシック作品です。

 この頃のパープルは、イアン・ギランとロジャー・グローヴァーを迎えて、新しいサウンドを追及していました。そこに、ロイヤル・アルバート・ホールを予約してあるから、とあっけらかんとジョンが切り出し、メンバーも仕方なく付き合ったという説が有力です。

 正味3日間ぐらいしかオーケストラはリハーサル出来なかったそうです。団員も最初は馬鹿にしていたらしいですが、指揮のアーノルドは乗り気だったそうで、やる気のない団員を叱りつけました。尊敬を集める彼ですから、オケにもそれなりに気合が入ったようです。

 結果、ライブは曲がりなりにも成功して、この実況録音盤も高い評価を勝ち得ました。物珍しさもあったのでしょう。しかし、パープルのメイン・ソングライターはロードだという評判になってしまったことから、バンドはギクシャクし、次作の主導権はリッチー・ブラックモアに移ります。

 パープルの歴史に置くと、一時の気の迷い的な位置づけになりますが、ジョン・ロードは、のちに「ジェミニ組曲」を始め、この路線を追及していますから、彼の歴史上は、一貫した流れの原点に位置するものとなります。後に再演も果たしていますし。

 話題は多い作品ですが、誰も第二期ディープ・パープルのデビュー作とは言いません。ロック・パートはこれまでのパープルの延長線上にあってオケ相手に頑張っているわけですけれども。ただ、聴き通すのはなかなかしんどいです。覚悟がいります。

Concerto for Group and Orchestra / Deep Purple (1969 Harvest)

*2014年6月7日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. First Movement
02. Second Movement
03. Third Movement

Personnel:
Jon Lord : keyboards
Ritchie Blackmore : guitar
Ian Gillan : vocal
Roger Glover : bass
Ian Paice : drums
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The Royal Philharmonic Orchestra
Malcolm Arnold : conductor