ジャケット間違えてました。お恥ずかしい。
 ジャケットにはヒエロニムス・ボッシュによる16世紀の絵画「快楽の園」が使われています。いかにもアート・ロックな世界です。しかし、この不謹慎な絵がアメリカでは物議を醸すこととなり、州によってはお店の目立つところに置いてもらえなかったそうです。

 そのことが原因の一つにもなって、それまで英国はともかく米国では結構な成功を収めていたディープ・パープルの作品であるにもかかわらず、このアルバムはセールス的には惨敗でした。100位にも入らず。所属していたテトラグラマトンの倒産とも関係してそうです。

 しかし、第一期最後の作品になってしまったセルフ・タイトルのこのアルバムはなかなかの力作です。前作に比べると、相変わらずバラエティーに富んでいるのですが、よりタイトにまとまっています。ハード志向が鮮明になる一方でクラシック趣味も全開です。

 ジョン・ロードによるクラシック趣味は、今回ついにオーケストラ・アレンジを加えるまでになりました。一方で、ドラムのイアン・ペイスはティンバレスやら何やらまでプレイして工夫を凝らしています。かなりカラフル度が増しました。前作からわずか半年にしてこの充実ぶり。

 今回はカバー曲はドノヴァンの「ラレーニャ」のみです。この曲では、ロッド・エヴァンスの濃ゆいボーカルが冴えています。この人はこういうバラードを歌わせると本当に素敵です。バンドの志向とは違ってきているのは分かりますけれども、心に染み入る良い声です。

 ハード志向の方は本物です。第二期以降のハード・ロックの帝王路線の前哨戦をはっきりと見て取ることができます。中でも「何故ローズマリーは」というエヴァンスが映画「ローズマリーの赤ちゃん」を見て詞を書いたという曲が際立っています。カッコいいです。

 ライブではもっとハード志向だったようです。そうなると、どうにもエヴァンスのボーカルが合わなくなってきます。というわけで、このアルバムが英国で発売される頃には、第一期のラインナップは終了してしまいました。ディープ・パープルのお家芸誕生です。

 リッチー・ブラックモアとロードはペイすを味方につけて、エヴァンスに代わるボーカリストを探します。白羽の矢が立ったのは、エピソード・シックスというバンドにいたイアン・ギラン。彼とのリハーサルには同じバンドのベーシスト、ロジャー・グローヴァーが付いてきました。

 ベースまで交代させるつもりはなかったそうですが、グローヴァーの作編曲能力に目を付けた彼らは、ついでにグローヴァーまでバンドに入れることになり、ニック・シンパーはお払い箱になってしまいました。かなり乱暴な交代劇だったようですね。

 この交代劇は、ディープ・パープルのイメージをある程度まで決定づけました。彼らも焦っていたんでしょう。ハード・ロックの世界では、レッド・ツェッペリンやブラック・サバスが華々しく登場して、アメリカで一足先に成功した彼らをひょいと追い抜いて行ったわけですから。

 ついついパープルを語る時には、こういうスキャンダルばかりになってしまいますが、ここは虚心坦懐にサイケでハードでクラシック趣味全開のアート・ロックの傑作を楽しみましょう。「ブラインド」や「4月の協奏曲」など第一期の完成形だと思います。

Deep Purple / Deep Purple (1969 Tetragrammaton)

*2014年6月9日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Chasing Shadows 影を追って
02. Blind
03. Laleña
04. a) Fault Line
b) The Painter 画家
05. Why Didn't Rosemary? 何故ローズマリーは
06. Bird Has Flown 小鳥は去った
07. April 4月の協奏曲

Personnel:
Rod Evans : vocal
Jon Lord : organ, piano, vocal
Nic Simper : bass, vocal
Ritchie Blackmore : guitar
Ian Paice : drums, timbales, percussion