オブスキュア・レーベルから第一弾として発表された4作品のうちの一つ、連番では2をつけられた作品がこの「アンサンブル・ピーシズ」です。三人の作曲家による作品4曲を一枚のアルバムに収録したもので、プロデュースはもちろんブライアン・イーノです。

 作曲家はクリストファー・ホッブス、ジョン・アダムズ、ギャヴィン・ブライアーズの三人です。キュレイターは同レーベルに深く関わっているブライアーズです。各楽曲の共通点らしきものはいずれもアンサンブルによるものだという点でしょう、そこでこのタイトルです。

 ホッブスは英国のアーティストで王立音楽アカデミーで学んだ後、即興音楽集団AMMやスクラッチ・オーケストラなどでもパーカッショニストとして活動していました。ブライアーズとはスクラッチ・オーケストラなどで共演しており、いわば仲間うちですね。

 ここでは2曲「アラン」と「マクリモン・ウィル・ネヴァー・リターン」を提供しています。「アラン」ではホッブス、ホッブスと活動を共にしているジョン・ホワイト、そしてブライアーズの三人がトイ・ピアノやリード・オルガン、トライアングルやチューブラー・ベルズなどを叩いています。

 「マクリモン」の方はホッブスとブライアーズによるリード・オルガンのデュオです。こちらはスコットランドのバグパイプ曲ピブロックを思わせる響きが特徴です。どちらの曲も音の響きが際立った美しい曲です。叙情的ではありませんけれども、心地よい演奏です。

 米国西海岸の作曲家、アダムズはこの時点ではほとんど無名の存在でした。ここに収録された「アメリカン・スタンダード」は今や古典とされている名曲です。サンフランシスコ音楽院のニュー・ミュージック・アンサンブルによるライヴ演奏が収録されています。

 アダムズはホッブスとブライアーズなどが作っていた実験音楽カタログについて問い合わせてきたのが出会いとなったとのことです。ブライアーズは、アダムズに招待されて渡米までしており、その縁でアダムズを真っ先にオブスキュアに入れようと思い立ったのだそうです。

 この曲は三部からなり、いずれも米国を題材にしています。最初がマーチ王と称されるスーザをモチーフにした行進曲調の曲、次いでキリスト教への熱を表現するべく、ドローンとラジオの説法を組み合わせた曲、最後はデューク・エリントンのジャズに題材をとった曲です。

 ブライアーズの曲は「1、2、1-2-3-4」と妙なタイトルがついています。10人のミュージシャンによる合奏なのですが、それぞれがお互いの音を聴くのではなく、ヘッドフォンから流れてくる曲に合わせて演奏しています。しかもその曲は同じ曲ですが全く同じではない。

 各自が聴いているのはそれぞれ別に録音されています。さらに再生機器の性能が不揃いで微妙にピッチもテンポも異なります。出てきた結果は何とも奇妙なアンサンブルです。それぞれはプロの演奏なのに合わさると変。妙にずれていく様が病みつきになりそうです。

 いずれの楽曲も実験的ではありますが、音の表情は攻撃的でも奇天烈でもありません。それでいて実に先鋭的です。いずれもが尋常でない空間を現出させる作品群です。オブスキュアが目指すところはこの作品に凝縮しているといってもいいと思います。傑作です。

Ensemble Pieces / Christopher Hobbs, John Adams, Gavin Bryars (1975 Obscure)



Tracks:
01. ARAN (Christopher Hobbs)
02. American Standard (John Adams)
a) John Philip Souza
b) Christian Zeal And Activity
c) Sentimentals
03. McCrimmon Will Never Return (Christopher Hobbs)
04. 1,2, 1-2-3-4 (Gavin Bryars)

Personnel:
Christopher Hobbs : tubular bells, triangles, cowbells, toy piano, piano
John White : reed organ, toy piano, triangles, drums
Gavin Bryars : reed organ, triangles, wood blocks, cymbals, double bass
The New Music Ensemble of the San Francisco Conservatory Of Music
Cornelius Cardew : cello
Derek Bailey : guitar
Mike Nicolls : drums
Celia Gollin : vocal
Brian Eno : vocal
Andy Mackay : oboe
Stuart Deeks : violin
Paul Nieman : trombone