生き残った唯一のメンバーであるイルミン・シュミットが監修する、クラウトロックの雄、カンのライヴ・シリーズ第三弾です。収録されているのはドイツ北部にあるドイツ最大の海岸保養地クックスハーフェンにて1976年1月7日に行われたライヴの模様です。

 いつものように各楽曲の題名は「クックスハーフェン1」から「クックスハーフェン4」まで、地名に通し番号をふったものとされています。このことがカンのライヴの性格を現わしていることはいうまでもありません。スタジオ盤の再現などでは毛頭ないということです。

 3作目の特徴は何といってもその短さです。前作、前々作がCDにして2枚組、1時間半にわたって演奏が繰り広げられていたのに対し、本作品では曲数は4曲、長いものでも8分半とカンのこれまでのライヴに比べれば極端に短くなっています。全部で30分です。

 この日のライヴが果たしてこれですべてだったのかはよく分かりません。また、演奏が編集されているのかどうかもよく分かりません。1曲目がフェイド・インから入ってくるので、最低限の編集はなされているのでしょうが、基本的には素のままなのだと思われます。

 このステージでのメンバーはドラムのヤキ・リーベツァイト、ベースのホルガー・シューカイ、ギターのミヒャエル・カローリ、キーボードのイルミン・シュミットの4人です。要するにボーカリストが不在の時期、シューカイが離脱する前の時期にあたります。

 シュミットによれば、「思うにあの頃は、私たち4人、つまりバンド設立時からのメンバーによる、いわば『本当のカン』だったし、特別な時期だった」ということになります。音楽的に相互に理解しあっていた4人による演奏ですから、「本当に良い時期」なのでした。
 
 実はシューカイは1975年末には後にカンのベーシストになるロスコ・ジーに後任にならないかと話を持ち掛けています。したがって、このライヴが行われた時にはすでにカンを脱退することを決意していたことになります。ライヴではそんなことはまるで感じられませんが。

 となると、その「本当に良い時期」も終りに近づいていたことになります。シュミットにとっても思い入れの深い時期なのでしょう。「1月7日のこの公演は、まるですべてのポジティヴな波動が優雅な同じ一瞬に集まったかのような夕べであった」のです。

 ここでの演奏はいずれも比較的短めの時間の中にかっちりとまとまっています。基本は即興ですけれども、「クックスハーフェン3」では、「スーン・オーバー・ババルマ」の冒頭を飾る名曲「ディジー・ディジー」がかなりの高速リズムとなって登場しています。

 この曲ではボーカルも入っており、珍しいことにどうやらシューカイらしいです。シュミットは既存曲を引用したとしても、それは引用にすぎないと発言していますが、それは比較的原型をとどめたこの曲を聴けばよく分かります。けっして「再現」なのではありません。

 カンのライヴ・シリーズの中では短めにまとまっている点でユニークなこのアルバムです。スタジオ作品は長尺の即興を短くまとめていくスタイルですから、このアルバムなどはスタジオ作品に似ているのかもしれません。短ければ短いなりにそんなことも楽しめる作品です。
 
Live in Cuxhaven 1976 / Can (2022 Spoon)



Tracks:
01. Cuxhaven 76 Eins
02. Cuxhaven 76 Zwei
03. Cuxhaven 76 Drei
04. Cuxhaven 76 Vier

Personnel:
Holger Czukay : bass
Jaki Liebezeit : drums
Michael Karoli : guitar
Irmin Schmidt : keyboards, synthesizer