過去の作品をパロディーにした作品を同時代ではなく、その作品が発表された時期がすでに同じ過去に属してしまうようになってから聴いてみるのも面白いものです。もはや何が何のパロディーなのか分からなくなってしまい、どちらもが同じ土俵に並んでしまいます。

 デュークス・オブ・ストラトスフィアはよく知られている通り、XTCの変名バンドです。発表当時は各メンバーも変名を使っており、その出自を隠す仕草がみられたものですが、さほど変名であることが話題にならず、ほどなくXTCの新プロジェクトとして受け止められました。

 このバンドが変名を展開したサウンドは1960年代後半のサイケデリック調のロックです。ヤードバーズ、ストーンズ、ビートルズ、ホリーズなどのサウンドにヒントを得たというか、楽しく真似したものとなっていて、本人たちも後にネタを明かして楽しそうです。

 当時のサウンドへの深い愛情が感じられるとても気持ちのいいサウンドが全編に展開されていて、これが素晴らしいです。肩の力は抜けまくっていて、ワイワイと楽しくレコーディングも進んでいったんじゃないでしょうか。いつものXTCとは少し違います。

 プロデュースには初期のXTCサウンドを支えたジョン・レッキーが起用されました。サウンド面からも1960年代を再現したレッキーのプロデュース・ワークは随分評判が良かったそうで、本作品はレッキーにとっても転機となった模様です。

 バンドは1985年のエイプリルフールにEP「25オクロック」を発表します。これが評判を呼び、87年にアルバム「ソニック・サンスポット」を出すに至りました。本作品はアルバム発表時に合わせて発表された両方の作品をすべて収録するお得版アンソロジーです。

 当初はEPだけの予定だったようですが、このアルバムが予想外に売れました。緩いとはいえ、変名を使っていたため、XTCの覆面バンドだと知らない人が多かったでしょうに、あろうことかXTC本体のアルバムよりもずっと売れたのだそうです。

 ヴァージンはさぞや喜んだことでしょう。できることならば、XTCをやめてこちらのバンドでやってほしかったかもしれません。アンディー・パートリッジもデュークスに大いに愛着があるようで、結局実現しなかったものの、この後、何度も再結成話が出てまいります。

 コリン・ムールディングは、パートリッジと違って、あまり60年代のサイケ・ポップを聴いておらず、かなり勉強しながらこのプロジェクトに付き合ったそうです。それでいて、彼の作った曲も素晴らしく、サイケな心をしっかり捉えています。彼自身もやはり器用な人なです。

 私はさほど60年代のサイケデリックに詳しくありませんから、本作品がその頃の音楽へのオマージュであることはよく分かりますけれども、ネタが何かとかまでは分かりません。むしろ、単純にXTCの新作だと受け止めて聴きこんだものです。かっこいいんです。

 XTCはこれまでも徹底的に各楽曲を磨いて磨いてきましたけれども、本作品ではその凝りようが一つの定まった方向を向いています。やり過ぎ感も音の響きなどの方に向かっており、本来のポップな持ち味がストレートに出ています。本体より売れたのも分かる傑作です。

Chips From The Chocolate Fireball / The Dukes of Stratosphear (1987 Virgin)

*2013年7月15日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. 25 O'Clock
02. Bike Ride To The Moon
03. My Love Explodes
04. What In The World??
05. Your Gold Dress
06. The Mole From The Ministry
07. Vanishing Girl
08. Have You Seen Jackie?
09. Little Lighthouse
10. You're A Good Man Albert Brown
11. Collideascope
12. You're My Drug
13. Shiny Cage
14. Brainiac's Daughter
15. The Affiliated
16. Pale And Precious

Personnel:
Andy Partridge : vocal, guitar, bass
Colin Moulding : vocal, bass, guitar
Dave Gregory : piano, organ, guitar, mellotoron
***
E.I.E.I. Owen : drum
Lilly Fraser : narration