「マネー」の大ヒットで英国のニュー・ウェイヴ・シーンに衝撃を与えたデヴィッド・カニンガムのフライング・リザーズによるセカンド・アルバム、「フォース・ウォール」です。ファーストの衝撃が大きかっただけに、何となく影が薄い作品ですが、もちろん傑作です。

 ここでカニンガムの相棒を務めているのはパティ・パラディンです。パラディンはジュディ・ナイロンとともにスナッチなるパンク・デュオを結成していました。スナッチはブライアン・イーノとのコラボ・シングルを発表するなど、界隈では結構有名なデュオでした。

 カニンガムはパラディンが米国のパンク・バンド、ウェイン・カウンティのコーラスを務めた時から知っていたそうで、念願かなってのコラボです。パラディンは作詞の大部分を手掛け、ボーカルとテープ操作で本作品に大きな貢献をしています。

 また、「フォース・ウォール」のタイトルもパラディンの発案です。舞台の四番目の壁とは客席との境目を指すのだそうです。フライング・リザーズの音楽は素人の強みを生かしたという点では四番目の壁が曖昧ではあります。哲学を感じてしまいますね。

 本作品は1980年12月には骨格が出来ていたそうですが、ヴァージン・レコードはこれを気に入らず、作り直しを命じます。しかし、そこから6か月、カニンガムは徹底的に抗戦し、結果的にオリジナル通りでの発表となりました。ヴァージンとの仕事もこれが最後です。

 ヴァージン・レコードは設立当初はメジャーとはいえないプログレばかりを発表する先鋭的なレーベルでしたが、セックス・ピストルズで一発当ててからは、身も心もすっかりメジャー・レーベルになってしまいました。リチャード・ブランソンにはがっかりしたものです。

 さて、本作品には多数のミュージシャンが参加しており、今回はその名前もきちんとクレジットされています。ここで最も目を惹くのは御大ロバート・フリップです。フリップは2曲に参加して、特徴的なギターを弾いています。一曲では作曲のクレジットもあります。

 その他にはパラディンつながりで、ウェイン・カウンティのバンド、エレクトリック・チェアーズからドラムのJJジョンソンとベースのヴァル・ホーラーも参加していますし、ポスト・パンクの重鎮、ザ・ポップ・グループのギャレス・セイガーのサックスも聴かれます。

 このバンドらしいのは現代音楽畑のアーティストの参加です。ピーター・ゴードン、スティーヴ・ベレスフォード、カニンガムがアルバムをプロデュースするマイケル・ナイマン、そして前作にも名を連ねていたジュリアン・マーシャルもその系統だといえます。

 こうしたアーティストを交えたサウンドは自由自在です。パプア・ニューギニアの笛の音やら中世の楽器レベックも使用されており、音色もさまざまですし、曲調もそれぞれの楽曲でまるで異なっています。軽やかなサウンドの実験がポップに展開しています。

 まだ1980年なので機材も進歩しておらず、手作り感が満載で、懐かしさも運んできます。しかし、基本的にはノン・ミュージシャンによるアウトサイダー・ミュージックであり、その実験精神は今でもきわめて刺激的に感じます。英国ポスト・パンクの極北の一つだと思います。

Fourth Wall / The Flying Lizards (1981 Virgin)



Tracks:
01. Lovers And Other Strangers
02. Glide / Spin
03. In My lifetime
04. Cirrus
05. A-Train
06. New Voice
07. Hands 2 Take
08. An Age
09. Steam Away
10. Move on Up
11. Another Story
12. Lost And Found
(bouns)
13. Portugal
14. Continuity
15. Lovers And Other Strangers (7" version)
16. Wind

Personnel:
David Cunningham : guitar, keyboards, percussion, tapes, siren, harmonicas, voice, violin, loops
Patti Palladin : voice, tapes
Steve Beresford : keyboards, bass
JJ Johnson : drums
Robert Fripp : guitar
Peter Gordon : sax
Cheryl lewis : voice
Michael Nyman : piano
Lucy Skeaping : rebec
Nick Hayley : rebec
Edward Pillinger : bass clarinet
Roy Allam : bass clarinet
Anne Barnard : horn
Steve Saunders : trombone
Keith Thompson : baritone sax
Ben Grove : bass
Vivien Goldman : voice