XTCの10枚目のアルバム「ノンサッチ」です。前作「オレンジズ&レモンズ」から3年余り、この頃には私の中のXTC熱は冷めており、発表されたことを横目に見ながら、リアルタイムでは購入することを差し控えたのでした。今となっては後悔しています。

 前作が比較的好評をもって受け入れられたことに気をよくしていたXTCは短い休息期間の後に本作品のための曲作りにとりかかります。順調に曲作りは進んで、本作品が発表される前年には30曲を越える楽曲ができあがったということです。

 しかし、ヴァージン・レコードの担当ディレクターは曲のクオリティーに納得せず、もっと良い曲が書けるはずだと、レコーディングを棚上げにしてしまいます。もはやベテランのXTCが折れるはずもなく、結局担当者が交代するまで膠着状態が続きました。

 結局XTCは妥協することなく、本作品の制作にこぎつけることができましたが、およそ1年近くを浪費しました。その後のプロデューサー選びも難航しており、意中のスティーヴ・リリーホワイトやヒュー・パジャムには断られ、結局、ガス・ダッジョンが担当することになりました。

 ダッジョンといえばエルトン・ジョンのプロデュースで有名な人です。そのダッジョンがXTCをプロデュースするというのも何ともミスマッチな感じがします。案の定、何とかレコーディングは終わりますが、最後のミックスのところでは結局ダッジョンはくびになっています。

 何だかこの頃のXTCのアルバム制作に係わるお話は暗いものが多いですね。しかし、本作品のタイトルは「ノンサッチ」、比類なきものとでもいった意味です。意気軒高です。ジャケットにはヘンリー8世がロンドンに建てたノンサッチ宮殿があしらわれています。

 しかも変形ジャケットといいますか、ジュエルケース自体に宮殿が印刷されておりました。ヴァージン・レコードはXTCを大事にしているのかしていないのか、よく分かりませんね。まあこれが彼らのヴァージン・レコードでの最終アルバムになってしまうわけですが。

 アルバムからは前作に比べると格段に落ち着いた印象を受けます。全17曲、LPだと二枚組の大作は、冒頭の「ピーター・パンプキンヘッドのバラード」から、最後の「ブックス・アー・バーニング」まで、見事に落ち着いたポップなロックが続いています。

 パンク時代に登場した当初のいらちなサウンドからは大きく隔たり、奇矯なアレンジも目立たず、とにかく渋い。研ぎ澄まされたメロディーもそれぞれが珠玉といってもよい美しさです。明るく弾けるサウンドではありませんが、極上のポップであることは間違いありません。

 今回はドラムに英国のフォーク・ロックを代表するフェアポート・コンヴェンションのデイヴ・マタックスが起用されています。このこともまたアルバムに英国らしい落ち着きをもたらしているように思います。リアルタイムで買っておればよかったとしみじみ後悔いたします。

 極上の作品ですから、控えめながらヒットもしました。前作に引き続いて英国でも米国でもチャート入りしています。グラミー賞にもノミネートされ、評論家の評価も高かった。とはいえ、大ヒットとまでは到底いきませんでした。結局、XTCはしばらく沈黙してしまいます。

Nonsuch / XTC (1992 Virgin)



Tracks:
01. The Ballad Of Peter Pumpkinhead
02. My Bird Performs
03. Dear Madam Barnum
04. Humble Daisy
05. The Smartest Monkeys
06. The Disappointed
07. Holly Up On Poppy
08. Crocodile
09. Rook
10. Omnibus
11. That Wave
12. Then She Appeared
13. War Dance
14. Wrapped In Grey
15. The Ugly Underneath
16. Bungalow
17. Books Are Burning

Personnel:
Andy Partridge : vocal, guitar, harmonica, percussion, synthesizer
Colin Moulding : vocal, bass, guitar
Dave Gregory : guitar, piano, synthesizer, organ, chorus
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Dave Mattacks : drums, percussion
Gus Dudgeon : percussion, chorus
Guy Barker : flugelhorn, trumpet
Florence Loegrove : viola
Rose Hull : cello
Stuart Gordon : violin
Gina Griffin : violin
Neville Farmer : chorus