マンディ・インディアナは英国マンチェスターが生んだノイズ・ロック・バンドです。本作品「アイヴ・シーン・ア・ウェイ」は待望されていたそのデビュー・フル・アルバムです。結成は2018年ですが、本作品は2023年の発表です。結構長くかかったデビュー作です。

 マンチェスターといえば血が騒ぐ人も多いかと思います。英国ではロンドンに次ぐ新しい音楽の産地といっていいでしょう。マンチェ・シーンなどと言われた頃の空気はいまだにマンチェスターの街に流れているのでしょう。このバンドなどは実にそのマンチェスターらしい。

 マンディ・インディアナのサウンドは、一言でいえば、「ノイズ、ポスト・パンクとエレクトロニック・ダンス・ミュージックのブリコラージュ」です。まさにマッドチェスターといわれた時期に活躍したバンドと目指すところは同じです。マンチェスターの地域性でもあるのでしょう。

 とはいえこのバンドはマンチェスター育ちというわけではありません。ボーカルのヴァレンティン・コールフィールドはフランス人で、活動拠点は英国であるにもかかわらずフランス語で通しています。彼女はオペラだって分からない言葉でも通じてるからと屈託がありません。

 バンドを有名にした先行するEP群では、バンドが根城とする地下室で録音されたことでも話題になりました。音源の制作技術は長足の進歩を遂げていますけれども、やはり人は人知を越えたものを求めたがるものです。完全にコントロールできない世界です。

 このアルバムでは地下室に加えて、英国サマーセットにあるウーキー・ホールなる有名な洞窟で録音されています。ここは秘境というわけでもなく、博物館やらゲームセンターなどもある観光地となっているようです。ゲリラ録音ではないわけですね。

 さらにブリストルにある教会を改造したクリエイティブ・スペースのマウント・ウィズアウトも録音場所と記載されていますし、書いてはいないもののショッピングセンターでも録音されたとのことです。ヴィンテージ楽器にもこだわっており、音響派といえる人達です。

 バンドの連中は何でもホラーやSFの映画音楽に大いに興味があるようです。本作品でのシンセやオルガンの音はエンニオ・モリコーネの「夢魔」やヴァンゲリスの「ブレードランナー」の影響を見てとる人もいます。さらに映画のサントラっぽい手法も用いられています。

 冒頭の「愛のテーマ」のメロディーが他の曲の中にも出てくるんです。「馴染みのあるメロディーが違う形で出てくることで別のエモーショナルなリアクションを引き出すんだ」とギターのスコット・フェアは語っています。こうなると野外録音も映画的観点からは自然ですね。

 なお、その「愛のテーマ」の冒頭部分は、洞窟でドラムを録音していた際に潜水夫が水の中から登場したのだそうで、その潜水士の立場に立ってドラムの音がどう聴こえたかを再現したとのことです。基本的にはモノクロームなサウンドですけれどもいろいろエモいです。

 コールフィールドのあの世から聴こえてくるようなボーカルにヴィンテージなシンセやオルガン、ダンス・ビートを刻むドラム、そしてさまざまな効果音などが、インダストリアルにミックスされたサウンドは未来的でもあり懐かしくもあり、マンチェスターの地縛霊を感じます。

I've Seen A Way / Mandy, Indiana (2023 Fire Talk)

参照:"It’s Supposed To Not Work: Mandy, Indiana Interviewed" Alastair Shuttleworth , May 8th, 2023



Tracks:
01. Love Theme (4K VHS)
02. Drag [Crashed]
03. Pinking Shears
04. Injury Detail
05. Mosaick
06. The Driving Rain (18)
07. 2 Stripe
08. Iron Maiden
09. Peach Fuzz
10. (ノ>ω<)ノ :。・:*:・゚’★,。・:*:♪・゚’☆ (Crystal Aura Redux)
11. Sensitivity Training

Personnel:
Valentine Caulfield : vocal
Scott Fair : guitar
Simon Catling : synthesizer
Alex Macdougall : drums
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Isaac Jones : drums
Thighpaulsandra : mellotron