ロック・ミュージシャンによるオーケストラ作品と聞くとやはり身構えてしまいます。歌が入ったり、バンドと共演したり、ストリングス扱いだとよいのですが、フル・オーケストラだけによる演奏だとなかなか平静ではいられません。イージー・リスニング化もあり得ますし。

 しかし、フランク・ザッパ先生は全く意に介していません。単に使っている楽器が違うだけでやっていることは変わらない。そうおっしゃっています。私はどちらも楽しめますけれども、同じ地平で聴けているかといわれると大変心もとないです。課題です。

 本作品は、先生の本格的なオーケストラ作品として登場した作品、題して「ロンドン・シンフォニー・オーケストラ」です。ケント・ナガノ指揮のロンドン交響楽団による演奏を収めた作品で、録音は1983年1月に3日間にわたって行われています。

 レコードでは、まず83年に第一集が出され、87年に第二集が発表されました。この先生公認CDは、両者をまとめたものですが、曲順はバラバラです。第一集発表時に第二集が予告されていますから、それぞれが独立した作品であるはずなので、曲順変更はやや謎です。

 収められた楽曲には、結構お馴染みの曲があります。「200モーテル」のフィナーレを飾った「ストリクトリー・ジェンティール」、「オーケストラル・フェイヴァリッツ」の「ボーガス・ポンプ」や「ペドロズ・ダウリー」、それに「フランク・ザッパの○△□」から「エンヴェロープ」です。

 第一集と第二集との間にシンクラヴィアを使った自動演奏主体の「ジャズ・フロム・ヘル」というアルバムが発表されていますが、それに対して音楽評論家諸氏は「冷たい」とか「完全主義」で「人間らしさが欠けている」と酷評しています。

 面白いことに、先生は第二集のライナーに自らその点を取り上げ、そんな人々はさぞかしこの作品を喜ぶだろうと書いています。皮肉たっぷりです。第一集にも「完全には程遠い」と書いていますから、必ずしもこの作品の演奏に満足していたわけではないことが分かります。

 「ストリクトリー・ジェンティール」などは、楽団員が休憩時間にパブに行って15分も遅刻したのに残業を拒否したそうです。そんな英国の「職人気質」を埋め合わせるために、7分弱の曲に50回以上の編集を行った先生でしたが、「人間らしさ」が残ってしまいました。

 しかし、編集しているんですね。何となくオーケストラだとそういうことが出来そうにない気がしていましたが、24チャンネルで録音してそれを編集してミックスダウンしています。実際、オーケストラ録音にそういう手法を持ち込んだのは先生が最初のようです。

 これはこれで素晴らしい作品だと思いますが、ロックと同じようには楽しめません。たとえば「ボブ・イン・ダクロン」は「サッド・ジェイン」と一組になっていますが、不愉快な都会の悪漢ボブがシングルズ・バーで中年のエロを満足させようと奮闘する話です。

 「ボーガス・ポンプ」が映画音楽のパロディーになっているというのは分かりやすいのですが、「ボブ」の方はその下世話なストーリーと一体とならない。どうしても心構えがロック的にならないわけです。音楽自体は大そう楽しいのですが、なかなか悩ましい作品です。

London Symphony Orchestra / Frank Zappa (1987 Barking Pumpkin) #0380

*2013年10月20日の記事を書き直しました。



Tracks:
(disc one)
01-02. Bob In Dacron
03-04. Sad Jane
05-07. Mo 'n Herb's Vacation
(disc two)
01. Envelopes
02. Pedro's Dowry
03. Bogus Pomp
04. Strictly Genteel

Personnel:
The London Sympohny Orchestra
Kent Nagano : conductor
David Ocker : solo clarinet
Chad Wackerman : drum set
Ed Mann : percussion