ローリング・ストーンズの「全公式録音を年代順に収録した大河アンソロジー」、「コンプリート・ストーンズ第三集」です。ジャケットは5人組となったストーンズ。ポートレートで統一しているところがストーンズの初期アルバムと軌を一にしていて好感度大です。

 本作品では、最初はデビュー・アルバムのための追加録音が二曲登場します。まずは不良のイメージに棹を差す「恋をしようよ」です。ミック・ジャガーとキース・リチャーズが運命の再会を果たした際にキースが持っていたマディ・ウォーターズのベスト盤の1曲目です。

 もう一曲は日本ではとりわけ人気の高いオリジナル曲「テル・ミー」です。この曲はテイクが2つ収録されています。最初のテイクは没バージョンなのになぜかデビュー・アルバムが英国で発売された際に初回プレスに入っていたというもので、私も初めて聴きました。新鮮です。

 続いてはマリアンヌ・フェイスフルが歌ってヒットした「アズ・ティアーズ・ゴー・バイ」のミックとキースによるデモ録音です。このときにはまだ「アズ・タイムズ・ゴー・バイ」というタイトルでした。しかし、ブルース一筋なのに、自作曲はこういう曲ばかりですね。面白いです。

 続く録音は自作曲「コングラチュレーション」と「グッド・タイムズ・バッド・タイムズ」です。それぞれ「イッツ・オール・オーヴァー・ナウ」と「タイム・イズ・オン・マイ・サイド」のB面曲として後に発表されます。曲作りに試行錯誤を繰り返していたことが分かります。

 さて本作品はここからがいよいよ本番です。めでたくデビュー・アルバムが発売されたストーンズは、まだ米国ではシングルを一枚しかリリースしていないにも係わらず、ビートルズの米国上陸の余波を自分たちのものにすべく米国ツアーを敢行しました。

 マネージャーのアンドリュー・オールダムには勝算があったのかもしれませんが、これは惨敗に終わります。ほとんどの会場は半分も埋まらなかったとのことで、いかにも早すぎた進出にメンバーは意気消沈したことでしょう。ここはオールダムも何とかしなきゃいけません。

 失地回復とばかりにオールダムがうった手は、ブルースの聖地シカゴのチェス・スタジオでのレコーディング・セッションでした。英国の無名の坊やたちが急きょセッションを行うことが出来たのはフィル・スペクターが口をきいてくれたからだそうです。つながります。

 かくして1964年6月10日と11日の両日、まだツアーの真っ最中でしたが、ストーンズの面々は憧れのチェス・スタジオにてレコーディング・セッションに臨んだのでした。全部で15曲、うち未発表は5曲です。残りはEP「ファイヴ・バイ・ファイヴ」などで発表されています。

 このセッションは実り多かったものと思われます。英国での熱狂的な聴衆を前にした演奏とは異なり、チェス・スタジオの地縛霊にバンドとしての原点に引き戻され、一皮むけた演奏を繰り広げています。ある意味ではここでストーンズは覚醒したのかもしれません。

 本作品はこの伝説のチェス・スタジオ・セッションを一望できるというだけでも大いなる価値があります。この当時のストーンズはアルバムの選曲なども戦略的でした。しかし、単に時系列で並べてみると、そうした戦略抜きにバンドとしての素の姿が浮かんで感動的です。

The Complete Stones #3 / The Rolling Stones (2024 Eternal Grooves)



Tracks:
01. I Just Want To Make Love To You 恋をしようよ
02. Tell Me (vers.1)
03. Tell Me (vers.2)
04. As Tears Go By (early version "As Time Goes By")
05. Congratulations
06. Good Times, Bad Times
07. Don't You Lie To Me
08. I Can't Be Satisfied
09. It's All Over Now
10. Stewed And Keefed
11. Around And Around
12. Down The Road Apiece
13. Confessin' The Blues
14. If You Need Me
15. Empty Heart
16. Look What You've Done
17. 2120 South Michigan Avenue (Long)
18. Down In The Bottom
19. Hi-Heel Sneakers
20. Tell Me Baby
21. Reelin' And Rockin'
(bonus)
22. I'm Left, You're Right, She's Gone (home demo)

Personnel:
Mick Jaggar : vocal, tambourine, handclaps
Keith Richards : guitar, chorus
Brian Jones : guitar, harmonica
Bill Wyman : bass
Charlie Watts : drums
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Ian Stewart : piano, organ