2024年正月は三上博史の歌劇で幕を開けました。寺山修司没後40年記念公演として、「寺山修司が生んだ俳優・三上博史」が天井桟敷の後継劇団万有引力とともに寺山ワールドを堪能させてくれました。その会場で買ったのが本作品「ザクロ」です。

 寺山に見いだされて、その監督作品「草迷宮」でスクリーン・デビューした三上は歌手としても作品を数多く残しています。そして、この「ザクロ」は2005年に発表された三上の第6作目のオリジナル・アルバムです。ほぼほぼインディーズ仕様のようにみえます。

 本作品には詩の朗読「プロローグ」を含め9曲のオリジナル楽曲が収録されています。三上はもちろんボーカルを披露している他に、プログラミングにも係わっていますし、多くの曲で作詞作曲も行っています。作品には隅々まで三上印が刻印されているといえます。

 ほぼすべての楽曲をアレンジするなど、三上の音楽を支えているのはエミ・エレオノーラです。先の三上博史歌劇でもキーボードを演奏しており、三上とは長い付き合いです。彼女はソロアーティストとして大活躍しており、女優としても寺山作品などに出演しています。

 エミのデビューは1992年結成のロック・バンド、デミ・セミ・クエーバーのボーカリストでした。このバンドのライヴを見に行ったことがあります。絶叫調のボーカルを聴かせるエミさんの迫力には圧倒されました。米国でも人気を博したいいバンドでした。

 エミとともに演奏陣を支えるのはプロデュースにも名を連ねている横山英規です。彼も三上博史歌劇にベースで参加していました。近田春夫のビブラトーンズから、かの香織がいたショコラータ、さらにはデミセミなどで活躍していたベーシストで、彼も三上とは長い。

 ちょうど本作品の頃には三上は「ヘドウィグ・アンド・アングリー・インチ」が当たり役となっていましたが、この舞台では横山が音楽監督、エミはイツァーク役で出演しています。演奏もデミセミのメンバーが担当していました。本作品はその余勢をかって制作されたのでしょう。

 本作品のドラムはデミセミの中幸一郎、ホーンには横山のザ・スリルから平田直樹と小泉邦男が参加しています。また、ミュージック・ソーには日本で活躍するアコーディオニスト、アラン・パットン、テルミンには日本の第一人者生方ノリタカがクレジットされています。

 この並びを見るだけでも渋い。三上のボーカルを支える演奏は実に深いです。テルミンやミュージック・ソーの音色に代表される幽玄でニュアンスに富んだサウンドが効果的に三上ワールドを演出しています。デミセミのロックとはかなり異なる仕様のサウンドです。

 一曲だけ、石井竜也と縁の深い近田潔人が作曲とプロデュースを手掛けた楽曲があり、感触の異なるその楽曲がちょうど真ん中に置かれていいアクセントになっています。まるでヴェルヴェット・アンダーグラウンドのような揺らいだフォーク調の楽曲です。

 三上のボーカルは俳優を生業とする人らしく、見事なまでに演劇的です。寺山の影響が濃い言葉からなる歌詞を聴く者に刻み込んでいくようなボーカルです。そして三上は曲ごとに演じ分けています。これはまるで演奏を舞台装置とする舞台のようです。素敵な作品です。

ʃαннϋro / Hiroshi Mikami (2005 Bark)

残念ながら見当たりませんので、歌劇のご紹介を。



Tracks:
01. Prologue
02. 風葬
03. 深く沈んだナイフの行方
04. 発酵
05. one small Big blessing
06. 裸子
07. bee
08. 黎明
09. 丘の上の廃墟

Personnel:
三上博史 : voice, programming
Emi Eleonola : keyboards, programming
横山英規 : bass
中幸一郎 : drums
近田潔人 : guitar, chorus, programming
平田直樹 : trumpet, flugelhorn
小泉邦男 : trombone
Alan Patton : bass clarinet, musical saw
生方ノリタカ : thermin