ジャケットはXTCのメンバーの出身地英国スウィンドンの近くにある古代イングランドの遺跡「アフィントンの白馬」です。ナスカの地上絵のようなもので、先史時代に英国に初めて住み着いた人々が作り上げたモニュメントです。英国の歴史の始まりです。

 XTCの5枚目のアルバムは「イングリッシュ・セトゥルメント」と題されました。イングランドへの定住とでも訳せばよいでしょう。もともと極めて英国的なバンドだったXTCが放つもっとも英国的なアルバムが本作品であることを全力をあげてアピールしています。

 本作品はXTC初の2枚組作品です。しかし、罪作りなことに英国以外では1枚に編集された短縮盤で発売されました。おかげで私はどうにもフル・バージョンになじめません。オリジナル・アルバムにボーナス・トラックが散りばめられているような感じがしてしまいます。

 ヒット・チャートの成績という点では、本作品はXTCの作品の中では最高の成功を収めました。なんと第5位、その後の彼らのキャリアを含めても空前絶後の大ヒットです。米国でもトップ40近くまで上昇しました。こちらの方は短縮盤ですけれども。

 初めてこのアルバムを聴いた時には驚きました。以前のアルバムとは音の質感がまるで違います。ひねくれてはいたもののイケイケで元気がよかったXTCが急に大人になりました。そもそも出だしからして音が小さい。どうしたXTC!と思ったものでした。

 ライブを切り取ったような前作と対比させると、アコースティックを多用してじっくり演奏を聴かせる作品になっています。もともとステージで演奏することをあまり考えていなかったようで、実際にこのアルバム発表後しばらくして彼らは「一切のステージを行わない」宣言をします。

 アルバム・プロモーションのために8回ほどライブをやっていて、そのあとの発表ですから、計画的というよりも衝動的な決定のようです。「誰も作家に目の前でタイプライターを叩いてもらおうとは思わない」などと、よく考えると変なことまで言っています。

 サウンドは、先にも書いた通りアコースティックが目立ちます。じっくり落ち着いて曲を堪能できる作りになっていて、ますます彼らのソング・ライティングの妙が際立ってきました。プロデューサーはエンジニアだったヒュー・パジャムとXTC本人。ポップ仙人の始まりです。

 この中からは「センシズ・ワーキング・オーヴァータイム」の大ヒットが生まれました。彼ら最大のシングル・ヒットで見事にトップ10入りしました。♪1、2、3、4、5♪と数えるところがチャーミングなアンディ・パートリッジらしいメロディーの名曲だと思います。

 私が一番好きなのは「オール・オヴ・ア・サドン」というラヴ・ソングというか愛のない歌です。パートリッジの曲で、♪人生はジグゾー・パズルのようなもの。端っこはすぐに見つかるけれども真ん中が埋まらない♪、というフレーズが私のツボにはまりました。本当にそうですね。

 アフリカンな曲もあったりするものの、強烈に英国らしさを感じる素敵な一枚です。前作とは質感が異なりますけれども、これもまた大きな転機になった作品で、XTCファンはここまで、という人も多いです。まあ、それだけの名作だということだと思います。

English Settlement / XTC (1982 Virgin)

*2013年7月9日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Runaways
02. Ball And Chain
03. Senses Working Overtime
04. Jason And The Argonauts
05. No Thugs In Our House
06. Yacht Dance
07. All Of A Sudden (It's Too Late)
08. Melt The Guns
09. Leisure
10. It's Nearly Africa
11. Knuckle Down
12. Fly On The Wall
13. Down In The Cockpit
14. English Roundabout
15. Snowman

Personnel:
Andy Partridge : vocal, guitar, synthesizer, anklung, alto sax, percussion
Colin Moulding : vocal, bass, synthesizer, piano, percussion
Dave Gregory : guitar, synthesizer, piano, chorus, percussion
Terry Chambers : drums, percussion, chorus