2023年紅白歌合戦のヨアソビは圧巻でした。日韓のトップアイドルを共演者とした「アイドル」の演奏はヨアソビの到達した高みを象徴しているようでした。ネット上のミームとなっている橋本環奈とあのちゃんのアイドル・ポーズも決まっていました。くらくらしますね。

 本作品はその「アイドル」を含むヨアソビの「ザ・ブック3」です。これまでと同様にシングル曲をまとめて発表されたEPの第三弾です。今回はライヴでは定番となっている「祝福」と「アイドル」へのインタールードが収録されているところが工夫の一つです。

 EPとしては「2」と「3」の間に「はじめての」と題するEPが発表されています。「3」には「はじめての」に収録された4曲はすべて含まれています。ただ「はじめての」にはもとになった小説集が添付されていますから、作品としての完成度が高いともいえます。

 「はじめての」は直木賞作家4人とのコラボレーション・プロジェクトでした。小説を原作とすることにこだわるヨアソビだからこそ実現した企画です。島本理生が「ミスター」、辻村深月が「海のまにまに」、宮部みゆきが「セブンティーン」、森絵都が「好きだ」の原作者です。

 なんとまあ当代の人気者を揃えたものです。歌詞が先で、それが小説になったり映画化されたりすることは昔もありましたけれども、こうして小説を原作にして歌詞を書くという行為はやはり斬新です。それが本業の小説家の小説を原作にするまでに大きくなったのですね。

 本作品にはいよいよ天下をとった「アイドル」が収録されています。これまでのヨアソビとは一線を画した見事な楽曲です。ボカロPをやっていた人でなければ書けないメロディーだと思います。それをイクラがまた見事に歌い上げる。苦労したそうですが、これは凄い。

 最近の若い人の多くは親しい仲間以外の人とカラオケに行くことに後ろ向きだと、さる大学教授が発言していました。なぜかといえば、みんな歌がうまくてちょっとやそっとの歌ウマでは恥ずかしいからだそうです。調子っぱずれが必ず一人はいた昔からは考えられません。

 そんな時代ですから、極端に難易度が高い「アイドル」は、「歌ってみた」動画魂に火をつけます。それもヒットの要因だといいますから面白いです。ここもまた隔世の感があります。正面からボカロだとこうはならないのでしょう。うらやましいコミュニティです。

 しかし、世界的ヒットの要因はやはりサウンドにあります。アヤセはK-ポップ、特にニュージーンズに触発されたそうですが、これは確かに世界標準のサウンドです。歌謡曲・ニューミュージックの昔からガラパゴス的に進化してきたJポップとは一線を画しています。

 どこがと言われると、ヒップホップ的なリズムが大きいのでしょうが、ボーカルも含めて全体が斬新です。もともとヨアソビの曲にするつもりはなかったそうですが、ここはボーカルが頑張りました。二人の息がぴったりで、明確に世界を取りにいって実現したのですから凄い。

 NHKの特集では下積みの苦労が開花した成功物語に回収されていました。それも事実ではあるのでしょうが、ヨアソビの成功はそうした昭和の物語にしてしまってはもったいない。旧世代の理解を越えたところにあるところが真骨頂です。驚くことばかりで本当にかっこいいです。

The Book 3 / Yoasobi (2023 YOASOBI)



Tracks:
01. 勇者
02. Interlude "Awakening"
03. 祝福
04. 海のまにまに
05. ミスター
06. Interlude "Worship"
07. アイドル
08. セブンティーン
09. アドベンチャー
10. 好きだ

Personnel:
ayase
ikura : vocal
***
Ash, Takeruru : guitar
やまもとひかる : bass
Konnie Aoki, Ebony Bowens, Lyle Carr, Shore Cienna, Imani J. Dawson, Emily, Mimiko Goldstein, Ivy, Chloe Kibble, Kyte, Haley Lewis, Marrista, Zaquro Misohagi, Sofia Ray, Andrew Soda, Marista Stubbs, Missy Suzuki, Velvet, Jonas Gen Whitaker : background chorus
Reak Akiba Boyz : shout