本作品は初期の集大成だとされることが多いです。私は実はこのアルバムがＸＴＣの初アルバムで、デビューに遡って聴いたものですから、ごくごく素直に集大成であるという認識がありました。あまりに素晴らしいサウンドでしたので、到達点として聴いていたわけです。
しかし、アルバムに針を下ろして、いきなりチリチリしたスクラッチ音が流れてきたのには驚きました。ＣＤだとすぐに効果音だと分かりますが、アナログ時代には傷がついているのかと顔面蒼白になる罪深い仕様なのです。いかにもＸＴＣらしい趣向です。
このチリチリ音に導かれて始まる「リスペクタブル・ストリート」のはつらつ感が本作品のすべてを物語っています。ＸＴＣ初期の集大成アルバムを引っ張る力強い名曲です。作曲はアンディ・パートリッジ、この頃はまだやっていたライヴ映えする曲です。
アルバムは前作に引き続いてプロデューサーにスティーヴ・リリーホワイト、エンジニアにヒュー・パジャムが係わっています。彼らのチームの特徴たる、どかどかバシャバシャしたドラムの音がここに完成をみました。身も心も１９８０年代に連れて行ってくれます。
パートリッジは何でも自分でやりたがる人なので、プロデューサーとの確執が絶えません。リリーホワイトはあまり出しゃばらない仕事ぶりでパートリッジとはウマが合ったようですが、パートリッジはドラムの音が欲しかったから起用しただけだと憎まれ口をたたいています。
一方、リリーホワイトの方は、「ＸＴＣがすごいのは」、「ただやること自体を目的としたオーヴァー・ダビングをしなかったことだ。彼らの曲には贅肉が全くなかった。出す音の一つ一つがすべて曲の構成要素だった」と賛辞を惜しみません。さすがです。
後にライヴをしなくなるＸＴＣですが、この頃はまだステージに立っており、このアルバムはそのライヴを瞬間冷凍して切り取ったような印象を受けます。録音もわずか２週間で行われたということです。無駄な音が一切ないということの要因でもあるのでしょう。
デビュー当時からのとにかく性急で、居ても立っても居られないイラチな感覚はそのままに、程よく解体されて再構築されたポップな装いも見事に決まっていて、私には非の打ちどころが見当たりません。コリン・ムールディングとの作曲競争も見事としか言いようがない。
本作品はＸＴＣのアルバムとしては初めて全英トップ２０に入るヒットになりましたし、米国でもチャート的に最も成功したアルバムになりました。ここからどんどんポップ仙人への道を歩んでいくＸＴＣのパンク時代を総括する名盤だと思います。
当時、ジャズ好きの友人にこのアルバムを紹介したところ、はかばかしくない反応だったのですが、しばらくしてから実はそれから毎日聴いているということが分かりました。認めたくなかったようです。彼はそれからニューウェイヴ沼にはまっていきました。恐るべしＸＴＣ。
Black Sea / XTC (1980 Virgin)
*2013年7月6日の記事を書き直しました。
参照：「ＸＴＣ チョークヒルズ・アンド・チルドレン」クルス・トゥーミィ著、藤本成昌訳（新宿書房）
Tracks:
01. Respectable Street
02. Generals And Majors
03. Living Through Another Cuba
04. Love At First Sight
05. Rocket From A Bottle
06. No Language In Our Lungs
07. Towers Of London
08. Paper And Iron (Notes And Coins)
09. Burning With Optimism's Flames
10. Sgt. Rock (Is Going To Help Me)
11. Travels In Nihilon
(bonus)
12. Smokeless Zone
13. Don't Lose Your Temper
14. The Somnambulist
Personnel:
Andy Partridge : vocal, guitar, synthesizer
Colin Moulding : vocal, bass
Dave Gregory : guitar, synthesizer, piano, vox humana
Terry Chambers : drums, synthesizer, vocal
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Step Lang : humming