ペドロは元BiSHで「僕の妹がこんなにかわいいわけがない」を担当していた最もアイドルらしいメンバーだったアユニDの企画物として始まったプロジェクトです。そのためにロックの世界ではあまり真剣に取り上げられていないように感じます。

 しかし、どうしてどうして日本のオルタナ・ロック界において抜きんでた存在ではないかと思います。瓢箪から駒、企画ものの企画をはるかに超える結果を生んでいます。最新作である本作品「赴くままに、胃の向くままに」を聴いてますますその意を強くしました。

 ペドロはBiSHが解散宣言をしてからしばらく活動を休止していました。BiSHに集中するためとのことですが、その間も着々とペドロ・チームはBiSH後に向けて準備を続けてきました。そうでなければBiSHの東京ドームでの解散ライヴ翌日にライヴをすることなどできません。

 再始動したペドロはベースとボーカルのアユニDを中心に元ナンバーガールの田渕ひさ子のギターは変わらず、ドラムのみヒトリエのゆーまおを新たに迎えた三人組となっています。ヒトリエは2011年に結成されたオルタナ・ロック・バンドです。

 ペドロはこの新体制でまずは2021年11月にリリースされた。「後日改めて伺います」を再録音した「後日改めて伺いました」をリリースしています。その後、シングルの発表、全国ツアーの開催とBiSHの各メンバー同様に順調に活動を行っています。

 本作品はそんなペドロによる新しいアルバムです。収録曲のうちインタールードとして収録されている「還る」以外の9曲すべてアユニDが作詞作曲を担当したオリジナル楽曲で占められています。前作同様ですが、アユニの曲作りはますますパワーアップしています。

 編曲は、ドミコのさかしたひかるが2曲、ネクライトーキーの朝日が1曲、BiSHの曲を多く手掛けていたoniが2曲、田渕ひさ子が4曲を担当しています。ドミコ、ネクライトーキーはいずれも日本のオルタナ・ロック・バンドです。アユニの趣味なのでしょうね。

 ドミコは「ライブは何度も拝見している」そうですし、ネクライトーキーは「中学生のころから聴いていましたね。ネクライトーキーとヒトリエは、陰キャのスーパーヒーローみたいな2大巨頭なので嬉しいです」とのことです。こういうシーンがあるのですね。いいことです。

 編曲陣にも恵まれて、本作品でのスリー・ピース・バンドはとにかくかっこいいです。以前のペドロに比べると格段にカラフルになった気がします。ドラムが交代したこともあるのでしょう、BiSHの匂い、すなわちスクランブルズの色が薄れました。

 やはり田渕のギターはかっこいい。アルバム中では目立たない楽曲である「清く、正しく」で聴けるギターのリフなんて地味に素晴らしい。アルバムにはシングル・カットされた「飛んでゆけ」を始めそれこそ見せ場は多いのですが、何気ない曲も素敵です。

 アユニDが、ペドロ一本になって、「初めて自分の心と向き合うということをして。そのときは『人生大革命期』だと大声で言えるほど、模索して迷って冒険していた期間」に作り上げたアルバムです。アーティストの成長物語としても格段に優れている作品だといえます。

Omomukumamani, Inomukumamani / PEDRO (2023 EMI)

参照:「PEDRO新作フルアルバム、アユニ・Dオフィシャルインタビュー」宮崎大樹(NOTE) 



Tracks:
01. 還る
02. グリーンハイツ
03. 春夏秋冬
04. 洗心
05. 音楽
06. ナイスな方へ
07. 清く、正しく
08. 赴くままに
09. 飛んでゆけ
10. 余生

Personnel:
Ayuni D : vocal, bass
Hisako Tabuchi : guitar
ゆーまお : drums
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さかしたひかる : guitar, produce
朝日 : programming