フランク・ザッパ先生がギターを手にしたのは18歳の頃と、「ザ・ギタリスト・パ」とされる先生としてはかなり遅いと言わざるを得ません。それ以前に先生がプレイしていたのは実はドラムスで、こちらは12歳の時に始めています。初めて聞いた時には意外な気がしたものです。

 その頃はバンドの花形がサックスからギターへと徐々に変わりつつあった時期にあたり、先生はバンドのギタリストにこんな風やあんな風に弾いてほしかったのですが、だれもそういう風には弾いてくれないので、それならばと自分でギターを弾くことにしたのだそうです。

 最初のギターは1ドル50セントの格安ヘロヘロ・ギターでした。先生はコードを学んだりして頑張りますけれども、21、2歳の頃にエレキ・ギターを手に入れると、これがまったく弾けないことが分かり、また一からやり直したということです。天才も苦労するのです。

 そんなことに思いを馳せると、ギター・ソロだけの三枚組が一段と輝いて見えます。全編これギターを弾きまくっています。そんなアルバムが売れるわけはないと思われましたが、意外にも結構な売れ行きを示し、先生はギタリストとして俄然脚光を浴びることになりました。

 本作品は、もともと通信販売限定で発表されました。「黙ってギターを弾いてくれ」です。素晴らしい題名です。その売れ行きに気を良くして続編「黙ってギターをもう少し弾いてくれ」が続き、さらに「黙ってギターを弾いてくれの息子の帰還」が発表されました。

 その後、三枚を一組にまとめたボックス・セットがめでたく発売され、店頭でも買えるようになりました。当初の邦題は「ザ・ギタリスト・パあるいはザッパのギター・アルバム」でしたが、今では原題通りの「黙ってギターを弾いてくれ」が使われています。

 本作品は1979年から1980年のライヴ音源を中心にしており、さまざまな楽曲の中で披露されたギター・ソロの部分だけを抽出したアルバムです。各楽曲には勝手な題名がつけられていますが、それぞれのオリジナル曲とは何の関係もありません。

 このことは先生のギター・ソロが作曲活動であることと親和性が高いです。先生はライヴ中に即興で紡ぎだしたギター・ソロのフレーズを発展させて曲を作る人なのです。プレイには手癖も多いのでしょうが、独立した曲になる見事なメロディーも醸し出されてくるのです。

 三枚のアルバムの表題曲は名曲「インカ・ローズ」のソロ部分を抜き出したものです。ロンドンのハマースミス・オデオンで行われたライブの音源で、それぞれ1979年2月18日、17日、19日のものです。同じ曲、同じ会場ですが、3日間全然違うソロです。凄いです。

 激しいソロからロマンティックなソロまで、幅も広いし、何よりも音が綺麗です。それにバックを務めるリズムが凄い。ソロでギターを弾いている後ろで伴奏しているという表現は全くあたりません。リズムだけ聴いていても絶品です。特にヴィニー・カリウタのドラムは本当に凄い。

 三枚組ですが、一枚一枚はそれほど時間も長くないですし、全部聴き通しても平気です。ある意味ではボーカル入りのポップなアルバムよりも凄く聴きやすいアルバムだといえます。聴いていればいるほどどんどん幸せになってくる素晴らしい大作です。

Shut Up 'N Play Yer Guitar / Frank Zappa (1981 Barking Pumpkin) #031,#032,#033

*2013年5月25日の記事を書き直しました。



Tracks:
(disc one) Shut Up 'N Play Yer Guitar
01. Five-Five-Five
02. Hog Heaven
03. Shut Up 'N Play Yer Guitar 黙ってギターを弾いてくれ
04. While You Were Out あなたの外出中に
05. Treacherous Cretins
06. Heavy Duty Judy
07. Soup'n Old Clothes スープと古着
(disc two) Shut Up 'N Play Yer Guitar Some More
01. Variations On The Carlos Santana Secret Chord Progression カルロス・サンターナの秘密のコード進行ヴァリエーション
02. Gee, I Like Your Pants
03. Canarsie
04. Ship Ahoy
05. The Deathless Horsie 不死の子馬
06. Shut Up 'N Play Yer Guitar Some More 黙ってギターをもう少し弾いてくれ
07. Pink Napkins
(disc three) Return Of The Son Of Shut Up 'N Play Yer Guitar
01. Beat It With Your Fist
02. Return Of The Son Of Shut Up 'N Play Yer Guitar 黙ってギターを弾いてくれの息子の帰還
03. Pinocchio's Furniture ピノキオの道具
04. Why Johnny Can't Read どうしてジョニーは字が読めないか
05. Stucco Homes
06. Canard Du Jour 本日のアヒル

Personnel:
Frank Zappa : lead guitar, bouzouki
Warren Cucurullo : rhythm guitar
Denny Walley : rhythm guitar
Ike Willis : rhythm guitar
Steve Vai : rhythm guitar
Ray White : rhythm guitar
Tommy Mars : keyboards
Peter Wolf : keyboards
Bob Harris : keyboards
Andre Lewis : keyboards
Eddie Jobson : keyboards
Jean-Luc Ponty : baritone violin
Arthur Barrow : bass
Roy Estrada : bass
Patrick O'Hearn : bass
Ed Mann : percussion
Vinnie Colaiuta : drums
Terry Bozzio : drums