記念すべきバーキング・パンプキン・レコードの第一弾です。フランク・ザッパ先生は長年レコード会社と戦ってきました。バーキング・パンプキンは、「ジョーのガレージ」を配給したフォノグラムがカーター大統領を批判する曲の発売を拒否したことをきっかけに作られました。

 この事件をきっかけに、先生は自分の作品の配給権を自身の手に取り戻していくことになります。まだまだ紆余曲折はありますが、レコード会社を相手に完全な勝利を収める先生は凄い人です。この後の検閲に対する戦いを含め、権威との向き合い方の尊いお手本です。

 1980年のほとんどをツアーに費やした先生は、ここにそのライブをまとめたアルバムを発表しました。それがこの「ティンゼル・タウンの暴動」です。この邦題は今では使われていません。直訳ですけれども、原題はバンド名なのでニュアンスが違うということなのでしょう。

 先生は、当時別のアルバムの企画を進めていたそうです。それが頓挫してこのアルバムになったわけですが、その痕跡があります。ジャケットをよく見ると、タイトルの後ろに「クラッシュ・オール」という文字がほの見えます。頓挫したアルバムのタイトルです。

 この作品は、全15曲で、冒頭の曲「ファイン・ガール」がスタジオ作、二曲目の「イージー・ミート」がライブにオーバーダブを施したもの、それ以降はオーバーダブなしのライブ音源です。昔の曲も数多く含まれていて、当時のステージの模様が伝わってくるアルバムです。

 MCもあります。その一つが「パンティー・ラップ」。先生が客席に脱ぎたてのパンティーやブラジャーを提供するよう呼びかけます。これはエミリー・ジェイムズというアーティストによる使用済み下着によってキルトを作るプロジェクトへの協力です。しっかり完成したそうです。

 さて、参加ミュージシャンで目を引くのは、ギターの奇才スティーブ・ヴァイの登場です。彼はギター・ソロの採譜係として雇用されていましたが、ここに晴れてミュージシャンとしてクレジットされるに至りました。ククルーロとともにザッパのギターに魅せられたオタクの両巨頭です。

 1980年代の先生を支える面子がほぼそろってきました。超絶技巧といいますか、とにかくべらぼうに達者なミュージシャンばかりです。初期のマザーズとは随分違います。過去の曲が多く含まれているのは、この面子でやり直しておきたいという動機もあった模様です。

 そんな過去曲も入っていますし、特にコンセプトがあるわけでもないので、この作品はよくザッパ作品の入門編と呼ばれます。緊張感が溢れる充実したアルバムには違いありませんが、先生の作品にしては癖がありませんから、確かに入門するには恰好の作品です。

 髭の貴婦人岸野雄一氏の解説によると、先生は「自分が弾くギターは例外として固有の楽器の重要でない帯域は思い切って削ったりしてしまうタイプ」です。本作品はそのことがより鮮明に表れているアルバムでもあります。妙な具合のサウンドには虜になってしまいます。

 それにジャケットが素晴らしい。先生の作品では常連のカル・シャンケルの作品です。どこか見覚えがある絵だと思っていたら、トッド・ブラウニング監督の超問題作「フリークス」のスティルを使っているんですね。あれは感動的な映画でした。ザッパ先生らしい趣向です。

Tinsel Town Rebellion / Frank Zappa (
1981 Barking Pumpkin) #030

*2013年5月1日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Fine Girl
02. Easy Meat
03. For The Young Sophisticate
04. Love Of My Life
05. I Ain't Got No Heart
06. Panty Rap
07. Tell Me You Love Me
08. Now You See It - Now You Don't
09. Dance Contest
10. The Blue Light
11. Tinsel Town Rebellion
12. Pick Me, I'm Clean
13. Bamboozled By Love
14. Brown Shoes Don't Make It
15. Peaches III

Personnel:
Frank Zappa : lead guitar, vocals
Ike Willis : rhythm guitar, vocals
Ray White : rhythm guitar, vocals
Steve Vai : rhythm guitar, vocals
Warren Cucurullo : rhythm guitar, vocalx
Danny Walley : slide guitar, vocals
Tommy Mars : keyboards, vocals
Peter Wolf : keyboards
Bob Harris : keyboards, trumpet, high vocals
Ed Mann : percussion
Arthur Barrow : bass, vocals
Patrick O'Hearn : bass on 09
Vinnie Colaiuta : drums
David Logeman : drums on 01 & first half of 02
Greg Cowan : featured in the role of eccentric well-do-do Oregonian party giver