音楽や美術を志すすべての若者の垂涎の的、スーパートランプのデビュー作です。結成からデビューまで大富豪の支援を受けるという夢物語のような出自のバンドです。だれしもが一度は夢に見るシンデレラ・ストーリーといえます。そんなバンドがあるんです。

 さらにいえば、スーパートランプは後に大ブレイクして、世界的なスーパースターに昇りつめますけれども、それは富豪の援助が打ち切られてからのことです。若者は安易に支援を受けて甘やかされてはいけないという見事なオチになっています。

 スーパートランプは富豪の支援を受けたリック・デイヴィスが音楽誌メロディー・メイカーにメンバー募集の広告を出したことで始まります。応募者の中から採用されたのはロジャー・ホジソン、リチャード・パーマー、ロバート・ミラーの三人ですから四人組でのスタートです。

 デイヴィスがキーボード、ホジソンがベース、パーマーがギター、ミラーがドラムという布陣で、四人はほどなくして英国に進出したA&Mレコードと契約し、デビュー・アルバムの制作にとりかかります。完成したのがセルフ・タイトルの本作品です。

 曲作りはデイヴィスとホジソンが中心になっており、当初からジャズやブルースを好むデイヴィスとポップなホジソンがそれぞれの持ち味をいかす双頭体制です。作者がボーカルをとるというビートルズ的なスタイルですから、判別も簡単です。

 なお、作詞は誰もやりたがらなかったからという消極的な理由でパーマーが中心になっています。学校の宿題に取り組むような姿勢で作詞したというパーマーですが、後に後期キング・クリムゾンのリリシストになるのですから人は分からないものです。

 サウンドは一言でいえばプログレッシブ・ロックです。1970年ですからまだまだ英国はプログレ勃興期です。ポップな持ち味が顔を出しつつも、当時のシーンの熱気を吸い込んだようなアート・ロック・スタイルでアルバム全体が貫かれています。

 各楽器のソロ・パートが結構な割合を占めていますし、大曲「トライ・アゲイン」に見られるように目まぐるしい展開の複雑な構成も顔を出しますし、この時代を強烈に感じるサウンドです。私などにはもうたまらないサウンドです。懐かしいです。

 とはいえ、まだデビュー作でもあり、アマチュアっぽい雰囲気も漂います。若気の至りを感じます。しかし、そこが魅力でもあります。残念ながら後聴きなのですが、もしも中高生の頃にこのアルバムを入手していたとしたら、一生の宝物になったのではないかと思います。

 私はこの手のサウンドには弱いんです。実際に偏愛している人も多いアルバムです。それに「トライ・アゲイン」の甘いメロディーや「シュアリー」の美しいピアノなど聴きどころは多いですし、ブレイク後の彼らの片鱗を見ようと思えばいくらでも見られます。その味わいもいい。

 ところがアルバムは全く売れませんでした。発表当時はそこそこ高い評価も獲得したようですが、振り返りのレビューはほぼ酷評です。後に報われるバンドですから安心して酷評できるというのもあるのでしょう。私は素直に素敵なアルバムだと思います。

Supertramp / Supertramp (1970 A&M)



Tracks:
01. Surely
02. It's A Long Road
03. Aubade And I Am Not Like Other Birds Of Prey
04. Words Unspoken
05. Maybe I'm A Beggar
06. Home Again
07. Nothing To Show
08. Shadow Song
09. Try Again
10. Surely

Personnel:
Richard Davies : organ, piano, harmonica, vocal
Roger Hodgson : bass, flageolet, guitar, cello, vocal
Richard Palmer : guitar, balalaika, vocal
Robert Millar : percussion, harmonica