フランク・ザッパ先生のファンにとって1979年はとてつもない豊作の年でした。大傑作「シーク・ヤブーティ」を発表した後、半年もたたずに「ジョーのガレージ第一章」が発表され、さらに二か月おいて2枚組の第二章と第三章が発表されたのです。

 本作品はその第一章から第三章をCD二枚にまとめた作品番号#28&#29「ジョーのガレージ」です。内容はロック・オペラで、「200モーテルズ」や「アンクル・ミート」に比べると格段に分かりやすいストーリーで、ブックレットにはト書きまで書いてあります。

 ガレージでジャム・セッションを行う若者ジョーが主人公のお話です。恋人のメリーがグルーピーになってしまい、失意のジョーはタコス・スタンドの女ルシールと懇ろになり、彼女から淋病をうつされると、今度は宗教に走ってセックス・メイトのサイボーグを売りつけられます。

 激しいプレイでサイボーグを壊してしまったジョーは金を払えずに刑務所に入ります。ジョーは刑務所でお偉いさん方に散々慰み者にされた挙句にようやく出所することができました。しかし、そこは音楽が禁止された世界。彼は頭の中でギターを弾き、曲を演奏していきます。

 そんな話です。管理しやすいようにするためには皆が平等である方がよく、そのためには全員を犯罪者にしてしまえばよいと気付いた政府は何をやっても犯罪になるように法律を作っていく、という管理社会を痛烈に皮肉った話です。これがとにかく下世話で猥褻で面白い。

 「ウェット・Tシャツ・コンテスト」など本当にくだらない。ノーブラの女の子にTシャツを着せて水をかけて喜ぶという最高に下らないコンテストで、先生の名司会ぶりがたまりません。テリー・ボジオ夫人の演じる馬鹿丸出しの女の子との掛け合いの面白いこと面白いこと。

 サウンドの方は、前作までと随分と音の感触が違います。これはバイオニック・ファンク、サイバー・ファンクと呼ばれるサウンドです。ただのファンクではなく未来型のファンクです。後に登場するシンクラヴィアのサウンドに似たサイバーな音なんですね。

 そして、ジョーの頭の中で演奏されるギター・ソロ「イースターのスイカ」は先生のギター・ソロの中でも人気の点では五本の指に入ろうかという名作バラードです。伸びやかなクリア・トーンで繰り広げられるフレーズにはうっとりさせられます。

 この曲がアルバムの締めであってもよいのですが、この後に思いっきりバカバカしいレゲエ調の「ア・リトル・グリーン・ロゼッタ」を持ってくるところが素敵です。収まりすぎないようにしっかりと聴く者を覚醒させて終わります。あまりにも意味がなくてほのぼのします。

 一新したバンドでは、先生のギター・ソロを徹底的に真似して弾いたことで認められた素人ギタリスト、ウォーレン・ククルーロと、先生をして格違いの最高のドラマーだと認めさせたヴィニー・カイウタが注目です。なお、ククルーロは後にデュラン・デュランに加入します。
 
 全部で2時間超のドラマですが、長さを感じることはありません。統一感のある音色で、最後までしっかりと筋書きが書かれており、コンセプト・アルバムとしてはこれ以上分かりやすい作品はありません。そして音楽は大傑作、先生の作品の中でも人気の高い一枚です。

Joe's Garage / Frank Zappa (1979 Zappa) #028&029

*2013年3月30日の記事を書き直しました。



Tracks:
(disc one)
01. The Central Scrutinizer
02. Joe's Garage
03. Catholic Girls
04. Crew Slut
05. Fembot In A Wet T-Shirt
06. On The Bus
07. Why Does It Hurt When I Pee?
08. Lucille Has Messed My Mind Up
09. Scrutinizer Postlude
10. A Token Of My Extreme
11. Stick It Out
12. Sy Borg
(disc two)
01. Dong Work For Yuda
02. Keep It Greasey
03. Outside Now
04. He Used To Cut The Grass
05. Packard Goose
06. Watermelon In Easter Hay
07. A Little Green Rosetta

Personnel:
Frank Zappa : lead guitar, vocals
Warren Cucurullo : rhythm guitar, vocals
Denny Walley : slide guitar, vocals
Ike Willis : lead vocals
Peter Wolf : keyboards
Tommy Mars : keyboards
Arthur Barrow : bass, vocals
Ed Mann : percussion, vcals
Vinnie Colaiuta : drums, combustible vapors, optometric abandon
Jeff : tenor sax
Marginal Chagrin : baritone sax
Stumuk : bass sax
Dale Bozzio : vocals
Al Malkin : vocals
Craig Steward : harmonica
Patrick O'Hearn : bass (disc two 03.)