リザードにとって1980年は疾風怒濤の日々でした。前年11月に海外録音によるメジャー・デビュー作を発表し、ロンドンでのギグでも十分な手ごたえを感じたリザードでしたけれども、メジャー・デビューによって直面することとなった状況と対峙することを余儀なくされます。

 あえて音楽業界に背を向けて、独自の草の根的なネットワークを作ろうと地方の小さなライヴ・ハウスをツアーして回ったり、自主制作レーベル、ジャンク・コネクションやミニコミ誌「チェンジ2000」をサポートしたりとリザードは独自の活動を続けていきました。

 4月にはそのジャンク・コネクションから自主制作シングル「SA・KA・NA」を発表しています。この曲は日本の四大公害の一つ水俣の水銀汚染を題材とした曲で、レコード会社の思惑に左右されないようにと自主制作を選んだという入魂の一枚です。

 その後、リザードは一旦は解散を宣言しますが、直後に最強最後のパンクス宣言へとパワーアップし、大きなホールでのコンサートも成功させるなど、その活動は絶頂を迎えました。社会問題にも積極的にコミットするリーダー、モモヨはまさにヒーローでした。

 しかし、6月に紅蜥蜴結成前からの盟友カツが突然失踪、さらに家業との板挟みでキーボードのコーが脱退するなど、突然リザードは大いなる危機に見舞われたのでした。そんな激動の中、7月には二枚目のアルバムとなる本作品「バビロン・ロッカー」の制作が始まりました。

 本作品の裏ジャケットにはモモヨとベースのワカ、ドラムのベルの三人しか写っていません。一方でクレジットには螺旋のメンバーだったギターのキタガワがメンバーとされており、さらにゲストとして脱退したはずのコーがキーボードとカシオトーンで参加しています。

 アルバムはA面がバビロン・ロッカー・サイド、B面がジャンキー・タウン・サイドに分かれています。モモヨの説明によると、A面は「オレ達が山の手にあこがれた感じを音にした」もので、B面は「重く暗く今の下町の雰囲気を出したって感じ」のものです。

 いずれもストリートに軸足を置いたサウンドが展開します。この頃のストリート感覚は身の周りに限定されません。モモヨは三里塚闘争やソ連によるアフガン侵攻を題材にしますし、本作には韓国の光州事件を音にした「光州市街戦」があります。これが当時のストリートです。

 「ジャン・ジャック・バーネルがプロデュースしていない」とわざわざ明記している通りのセルフ・プロデュースで、サウンド面でもストリート感覚が満載です。カシオトーンのチープな音色がぶっといベースと絡み合うさまなどは本作品のサウンドを象徴しているようです。

 サウンド面ではスカやダブ、ニューオーリンズの「月下値千金」までバラエティ豊かなポスト・パンクが展開します。リザードのサウンドをパンクと表現してきましたが、ストラングラーズが過去にさかのぼってもはやパンクと呼びにくいことと同じ感覚を覚えます。

 かなりの意欲作であることは間違いないのですが、モモヨの苦悩は半端なく、本作品の制作中にはジャンキーへの道を一目散に駆け抜けていたのでした。作品も無事に発表され、何とか踏みとどまって立ち直ったモモヨでしたがそこで逮捕されてしまうのでした。大変です。

Babylon Rocker / Lizard (1980 キング)



Tracks:
01. 宣戦布告
02. さよならプラスティック・エイジ
03. 浅草六区
04. 販売機で愛を買ったよ
05. キッズ/バビロン・ロッカー
06. 月下値千金
07. リザード・ソング
08. 光州市街戦
09. まっぷたつ
10. サ・カ・ナ
11. ゴム

Personnel:
モモヨ : guitar, synthesizer, vocal
ワカ : bass
ベル : drums, percussion
キタガワ : guitar
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コー : keyboards, casiotone
ZELDA : chorus