そういう風に読んでいる人を見たことはありませんが、XTCはエクスタシーを意味するそうです。NRTやHNDのようにIATAが空港に付与するコードのようでもあり、DAIGOの十八番のようでもあり、なかなか味わい深いバンド名をつけたものです。

 XTCはこの当時パンクを推進することでメジャー進出を果たしたヴァージンからデビューしました。このことからも分かるように、デビュー当時のXTCはパンクでした。パンクという言葉にはさまざまな反応があろうかと思いますが、少なくとも私にはXTCはパンクそのものでした。

 私がXTCと出会ったのは、赤い長靴をはいた子豚をジャケットにあしらったヴァージンのコンピレーション・アルバムでした。2枚組LPですから4面あるのですが、その1面がパンク・サイドとされ、XTCの「レディオズ・イン・モーション」が収録されていたのです。

 同曲はデビュー作「気楽にいこうぜ」では冒頭を飾っています。鋭角に切り込むリズムといらちで性急なボーカルが突っ走る。若い頃は別に怒っているわけでないけれども、世界のスピードがもどかしくて仕方がないものです。そんな感情を見事に昇華してくれる曲です。

 パンクというと怒りとかいろいろと社会派的な側面が取沙汰されますが、別に怒っている人ばかりがパンクを支えたわけではありません。70年代後半から80年代にかけての若者のスピード感覚に答えたものがパンクだとすれば、XTCは重要なパンク・バンドです。

 XTCはギターのアンディー・パートリッジ、ベースのコリン・ムールディングの二人がそれぞれ作曲を手掛け、自分の曲は自分で歌うというルールのバンドです。曲のクレジットが連名になっていないところが異なりますが、そうです、これはビートルズです。

 本作品の頃には、バリー・アンドリュースも奇妙なキーボード音でXTCサウンドの要を担っています。もう一人のメンバーは「ジャスト・ドラムス」とクレジットされているドラマー、テリー・チェンバースです。同じ四人組でもビートルズとは微妙に編成が異なります。

 XTCは1970年代前半に活動を開始、MC5やアリス・クーパーなどに影響を受けた音楽をやっていましたが、その後、ニューヨーク・ドールズに入れ込み、出身地スウィンドンを冠したスウィンドン・ドールズなどと野次られたほど。見事にパンクの先達ばかりですね。

 その後、レコード会社のオーディションに落ちまくり、最後にヴァージンに拾われたということですから、ここはとてもピストルズ的です。このジャケットはレコード会社に勝手に作られたと後にメンバーが憤慨しますが、いかにもパンクとして売り出そうとしたことが分かります。

 性急なリズム感覚が際立つサウンドですが、後のポップ仙人XTCの全てが含まれているようにも思います。尖ったタテノリの高速リズム、エキセントリックなボーカルと性急なカッティングのギター、手数の多いベースに奇妙奇天烈なキーボード。そこに隠されたポップの妙。

 原題を「ホワイト・ミュージック」とされた本作品は、英国で38位とそこそこのヒットを記録しました。新人らしからぬ力量だということで、XTCは音楽業界の注目を集めることにも成功しています。私にとっても思い出深いアルバムです。これがパンクだったんです。

White Music / XTC (1978 Virgin)

*2013年7月1日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Radios In Motion
02. Cross Wires
03. This Is Pop
04. Do What You Do
05. Statue Of Liberty
06. All Along The Watchtower 見張塔からずっと
07. Into The Atom Age
08. I'll set Myself On Fire
09. I'm Bugged
10. New Town Animal In A Furnished Cage
11. Spinning Top
12. Neon Shuffle
(bonus)
13. Science Friction
14. She's So Square
15. Dance Band
16. Hang On To The Night
17. Heatwave
18. Traffic Light Rock
19. Instant Tunes

Personnel:
Andy Partridge : guitar, vocal
Colin Moulding : bass, vocal
Barry Andrews : steam piano, clapped out organs
Terry Chambers : just drums