「ザ・ブック2」は2021年12月に発表されたヨアソビのセカンドEPです。アルバムと呼んでしまいたい衝動にかられますが、本人たちにも若いファンの皆様にもそういう意識はないようです。しばしば比較されるヨルシカとはまるで違うアーティストのあり方です。

 そもそもタイトルがいいです。「ザ・ブック2」。楽曲のまとまりに意味があるわけではないことを示しているようです。前作にあったエピローグやプロローグもありません。これはアルバムではなく、プレイリストであるということを示しているということでしょう。

 とはいえ物理媒体での発売ですから、グッズは充実しています。このあたりも、グッズ販売が大きな収益源となっている最近のアーティストたちの世界を反映しています。ヨアソビは私にとって音楽産業の今を教えてくれる先生のような存在です。

 本作品には「ザ・ブック」と同日に発表された配信シングル「怪物」から「ツバメ」までの7曲にこの時点ではシングルとしてのリリースはされていなかった「もしも命が描けたら」を加えた8曲が収録されています。いずれもヒットしていますが、とりわけ「怪物」が怪物です。

 「怪物」はユーチューブでは3億回を超える再生がなされており、海外でも人気を博して英語版も制作されています。レコード売上枚数などではなくて視聴回数で測られるのは、視聴者としては大変結構なことですが、それにしても3億回と言われるとめまいがしてきそうです。

 ヨアソビの楽曲は当初から変わらず、原作小説に基づいて制作されています。本作品中の「もしも命が描けたら」は鈴木おさむの原作をもとに制作されており、それが同名の舞台のテーマ曲ともなっています。こうなると大変に分かりやすいです。

 しかし、その他の曲もアニメのテーマ曲となったり、CMに起用されたりしているものの、「ツバメ」がNHKの「みんなのうた」になっているのはよいとして、原作小説と当該アニメやCMとの関係は希薄です。もやもやする気持ちはありますが、楽曲の力だと納得しておきます。

 サウンド面でも当初から変わらず、アヤセが曲を作ってイクラが歌う、この構造は盤石です。ゲストとしてクレジットがあるのはほぼギターやコーラスのみです。異色なのは「ラブレター」で大阪桐蔭高校のブラスバンドが参加しています。人気者らしい試みですね。

 前述した「怪物」は米国のタイム誌にて2021年のベスト・ソング10に選出されています。デジタル世代は軽々と国境を越えてくるところが凄い。この曲はダークなエレクトロ・サウンドと目まぐるしい展開で他と一線を画しており、ヒットも納得です。

 CDが斜陽化する前でも、日本で発売される新譜CDのかなりの部分をアニメやゲームが占めていました。そこはアニソンとしてテレビで喧伝される世界よりも層が一段も二段も深いところにある世界でした。私はこの世界を遠くから望見しているのみでした。

 ヨアソビを聴いていると、その世界がインターネット上で大爆発したように思います。地下にマグマとなって溜まっていたエネルギーが一気に放出され、そのエネルギーをヨアソビが形にしたのではないでしょうか。なんとも胸がすくいいお話であろうと思います。

The Book 2 / Yoasobi (2021 YOASOBI)



Tracks:
01. ツバメ
02. 三原色
03. 大正浪漫
04. もう少しだけ
05. 優しい彗星
06. 怪物
07. もしも命が描けたら
08. ラブレター

Personnel:
Ayase : music, lyrics
ikura : vocal
***
AssH : guitar
ミドリーズ : chorus
YOASOBIバンド : chorus
大阪桐蔭高等学校吹奏楽部 : brass