リザードは日本のパンク・シーンにおいて、セックス・ピストルズの役回りを期待されたバンドでした。東京ロッカーズでもフリクションと人気を二分していましたが、リザードの方が感情移入がしやすいバンドでしたから、勝手な観客からいわゆるパンク幻想を背負わされました。

 紅蜥蜴時代にテレビ・ジャックを敢行した実績は伝説と化していました。リーダーのモモヨは後にヘロインで逮捕され、実刑判決を受けるという反社会的挿話まで誕生しました。ナチス・ドイツ風ファッションに身を包んで演奏する彼らは時代のアイコン候補として十分でした。

 しかし、なかなかそうはなりませんでした。思うに宿敵はテレビだったのではないでしょうか。テレビ・ジャック伝説はありましたが、私が見た彼らは日本のパンク・バンドの特集番組でした。プラスティックスやヒカシュー、P-モデルやらと並んでの出演です。

 ベースのワカがマイクを向け られるたびに「ガオー」と吠えて気を吐いていましたけれども、バンド毎に一列に整列して座っている絵は厳しかった。こういう時にもっともダメージが大きいのがリザードです。また歌が「TVマジック」。♪ヴィヴァ、テレービ♪は、ちょっと残念でした。

 彼らのキャリアは結構長く、中心メンバーのモモヨとカツは、1970年頃に灰野敬二との即興演奏で初ステージを踏んでいます。その後、何と天才バカボンの「秘密結社紅トカゲ団なのだ」から名前を拝借して紅蜥蜴となります。時代を感じるエピソードですね。

 ティラノザウルス・レックスからグラム・ロックへと展開していた彼らですが、東京ロッカーズになる頃にはリザードと改名し、パンク仕様となりました。恐らくそのスタイルが一番性に合っていたのでしょう。彼らはいよいよアンダーグラウンドの人気者になっていきます。

 本作品は、リザードとしてのデビュー・アルバムでストラングラーズのジャン・ジャック・バーネルがプロデュースしたものです。ロンドンで制作されました。自分たちが音盤を制作して、レコード会社に持ち込んだだけに、本来やりたかった通りの音になったようです。

 バーネルは「日本語の意味が分からなかったんでボーカルを楽器のように扱って しまった」ところに若干不安があったと言っていますが、それは返って良い効果をもたらしたと思います。モモヨの歌はあまりクリアに前に出過ぎない方が迫力がありますから。

 サウンドは、ストラングラーズよりもストラングラーズらしいと言えます。ラウドな骨太ベースと、テクノ風のキーボード、リズムに徹するギター、そしてちょっといちびり声のモモヨのボーカル、さらにバーネルが最も大切にしたという力強いドラム・サウンド。

 録音にもガレージっぽい雰囲気が残されていて、時代を真空パックしたような風情が素晴らしいです。しかし、かなりの力作であるにも関わらず、パンク幻想を一方的に押しつけてくるファンにはあまり評判はよくなかったようです。難しいものです。

 東京のアンダーグラウンド・シーンを支えた地引雄一の写真を使った幻想的なジャケットといい、よく出来た作品でしたけれども、どこか虚ろな感じが漂っていました。パンク幻想に翻弄され、不毛な戦いを余儀なくされた状況へのいらだちもあったのでしょうか。

Lizard / Lizard (1979 キング)

*2014年12月11日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. ニュー・キッズ・イン・ザ・シティ
02. プラスティックの夢
03. ラジオ・コントロールド・ライフ
04. ガイアナ
05. 記憶/エイシャ
06. T.V.マジック
07. マーケット・リサーチ
08. そのスウィッチに触れないで
09. モダン・ビート
10. ラヴ・ソング
11. 王国

Personnel:
吉本”ベル”孝 : drums
塚本勝巳 : guitar
菅原”モモヨ”庸介 : vocal
中島幸一郎 : synthesizer
若林一彦 : bass