バディー・ホリーはロックンロール揺籃期のスーパースターの一人です。シンガーソングライターの元祖でもあり、ギターにベースにドラムというロック・バンドのフォーマットを作り上げたのもホリーの功績とされます。眼鏡をかけたロック・スターの先がけでもあります。

 ビートルズは、ホリーのバンド名クリケッツにあやかってバンド名をつけたこと、ローリング・ストーンズの最初のトップ10ヒットがホリーの「ノット・フェイド・アウェイ」のカバーであったこと、この二つのエピソードだけで、ホリーの影響の大きさが分かるというものです。

 しかも、ホリーはなんと22歳の若さで飛行機事故で亡くなってしまっています。亡くなったのが1959年ですから、ずいぶん昔のような気がしますけれども、ホリーは長嶋茂雄や立川談志と同い年、まだ生きていてもおかしくない人なのでした。

 実質3年に満たない活動期間であったにもかかわらず、ロックの世界にその名を深く刻印したことはホリーの凄さを証明しています。他の元祖たちに比べ、折り目正しい立ち姿のホリーが歌うしゅっとした佇まいのロックンロールは訴求する層が各段に広いものと思います。

 本作品はリイシューを多く手掛けるインディペンデント・レーベルのヴィヴィド・サウンドから発売されたホリーの編集盤「パイオニア・オブ・ロック」です。「ロックンロール地獄の入門講座!テキスト1『メガネ・ロッカーには気をつけろ!』」と熱く煽られています。

 このCDそのものはポーランドのインディーズ・レーベルであるマジック・レコードから発売されており、その国内流通をヴィヴィドが手がけた形です。マジックは1998年の設立当時はハウスやテクノなどダンス・ミュージックを中心にしていたそうですから面白い。

 やがて米国西海岸のカントリー・ロックや60年代、70年代のアーティストのリイシューなども手がけるようになって今日に至っています。ロックンロールのレジェンドも多く手掛けており、バディー・ホリーの本作品もその一つと位置づけることができます。

 ホリーが活動していたのは1950年代のことですから、まだアルバム中心の時代ではありません。そのこともあって、没後にはとにかく数多くの編集盤が登場しています。ディスコグのサイトを見ると400種類近くあります。しかも本作品は載っていない。

 この作品はマジックが独自に編集したと思われるホリーの編集盤3部作のうちの一つです。他の二種類は「ザットル・ビー・ザ・デイ」、「ペギー・スー」、本作品は続く第三弾であり、重複はありませんから、その二曲は含まれていないことが分かります。

 ホリーの大ヒット・シングルといえばその二曲ですから、第三弾の選択はなかなか渋いです。それでも、本作品には「ハートビート」や、リンダ・ロンシュタットのカバーでお馴染みの「イッツ・ソー・イージー」、驚きのバラード「トゥルー・ラヴ・ウェイズ」など名曲ぞろいです。

 エルヴィスから衝撃を受けてロックを始めたというホリーの系譜はビートルズにつながり、現在のロックの系統樹の太い幹を構成しています。まさにロックの教科書です。教科書を侮ってはいけません。いつまでも古くならないのが教科書の教科書たる所以ですから。

Pionniers du Rock / Buddy Holly (2009 Magic)



Tracks:
01. Heartbeat
02. It's So Easy
03. Take Your Time
04. It Doesn't Matter Anymore
05. Wishing
06. Moondreams
07. Think It Over
08. Fools Paradise
09. True Love Ways
10. Reminiscing
11. Lonesome Tears
12. Early In The Morning
13. Now We're One
14. Well All Right
15. Raining In My Heart
16. You're The One
17. Come Back Baby
18. Rave On

Personnel:
Buddy Holly