新生イエスの「ロンリー・ハート」に続くアルバム「ビッグ・ジェネレイター」です。イエスには新作アルバムが出るたびに驚かされてきましたが、今回はそれほどではありませんでした。前作から4年と、けっこうな間隔を開けて発表されたにもかかわらず、です。

 この作品の発表に時間がかかったのは制作が難航したからなのだそうです。クリス・スクワイアも時間をかけ過ぎたと反省の弁を述べています。かつてのイエスのような大作主義でもありませんから、時間をかけ過ぎるとやはり鮮度に問題が生じそうです。

 イエスにしては珍しくメンバー交代がなかったにもかかわらず制作が難航したのは、プロデューサーの交代があったからです。当初プロデュースにあたっていたトレヴァー・ホーンが、メンバーと意見が合わず途中降板したのでした。やはり人的な要因でした。

 結局、プロデュースにあたったのはもう一人のトレヴァー、トレヴァー・ラビンで、前作ライヴのサウンド・エンジニアを務めたポール・デヴィリエとの共同プロデュースとなっています。デヴィリエは80年代に活躍したミスター・ミスターのプロデュースでも名を知られる人です。

 本作品ではその経緯からも分かる通り、前作以上にラビン色が強くなっているように思われます。この点に関しては議論があるようですけれども、私はオリジナル・イエスのメンバーの演奏までもラビン色に染まっている印象を受けました。ラビン・イエスです。

 ラビンの色はプログレ風味を残してはいるものの、1980年代のロックそのものです。アルバムを聴きながら、80年代に流行した音楽ってこういうのだったなあとしみじみと感慨に耽ることになります。しかもプログレに足を掛けているので、懐かしさが倍増します。

 さすがは達者な面々が作り出すサウンドですから、凡百のロック・バンドの作品よりもよく出来ていると思います。しかし、このサウンドでイエスと名乗ることにどのような意味があるのか釈然としないことも事実です。エイジアのように名前を一新してもよかったのに。

 ドラマのイエスは、イエスと名乗ることに大きな意味がありました。とてもイエスらしいサウンドでしたから。しかし、こちらはメンバーこそクラシックなイエスですけれども、サウンドにイエスらしさはありません。名前がイエスでなければ、そんなこと思わなかったでしょうが。

 とはいえ、もしも名前がイエスでなかったならば、果たして私は聴いていただろうか、とも思いますから、イエスを名乗ることには相応の意味があったともいえます。何だか二重三重にややこしいです。もっとも、イエスはこの後さらにややこしくなり、ここはまだ序の口なのでした。

 アルバムは手堅くまとまっています。やはりジョン・アンダーソンが元気に歌っている姿はとても魅力的です。アンダーソンは本作品後にまた脱退し、このイエスよりも、さらにオリジナル・イエスに近いバンドを結成します。そういう瀬戸際の歌唱は一段と冴えるものです。

 アルバムはグラミー賞にノミネートされましたし、ヒット・チャートでもトップ20に入るそこそこのヒットを記録しました。しかし、前作の成績には遠く及ばず、下向きのベクトルを背負った作品になってしまいました。80年代らしくまとまった作品ではあるのですが、残念です。

Big Generator / Yes (1987 Atco)

*2014年12月5日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Rhythm Of Love
02. Big Generator
03. Shoot High Aim Low
04. Almost Like Love
05. Love Will Find A Way
06. Final Eyes
07. I'm Running
08. Holy Lamb (Song For Harmonic Convergence)

Personnel:
Jon Anderson : vocal
Chris Squire : bass
Trevor Rabin : vocal, guitar
Alan White : drums
Tony Kaye : keyboards