ヨアソビなのにまぶしすぎて、なかなか直視できませんでした。1970年代のロックで育った私などにとって、ヨアソビは何から何まで理解の範疇を越えています。そんな親父をあざ笑うかのように快進撃を続ける二人に遅まきながらちゃんと耳を傾けることといたしました。

 ヨアソビはボカロPのアヤセと、インスタグラムなどで自身が歌う動画を上げていたシンガーソングライターのイクラによるユニットです。もうこの説明だけで昔は考えられないわけです。実に軽やかですね。インターネットの申し子というか何というか。

 結成のきっかけがまた違う。小説やイラストを中心とするSNSサイトが、小説を音楽にするユニットを企画したことが始まりで、そこにアヤセが応じ、さらにイクラが発掘されたということです。ある意味では企画物で、二人にとっても個人活動のかたわらの活動です。

 企画物は昔もありましたけれども、スタッフとアーティストがフラットな関係であるところが何とも現代的です。二人にしても、「バンドやろうぜ!」と暑苦しく集まったわけではないわけで、いかにもクールです。ロック幻想などどこにもありません。しびれますね。

 楽曲の発表もまた昔のロックとは違います。中心はデジタル・シングルで、フィジカルなリリースはほぼ生産限定盤でおまけ付き、お土産感があふれています。アルバムはシングルがある程度溜まったところでそれをまとめて出す。基本はEP扱いです。

 本作品は2021年1月にバインダーなど特典満載で発売されたヨアソビのファーストEPでその名も「ザ・ブック」です。アルバムへの思い入れなどまるでないところがまた70年代のロックなどとはかけ離れています。こんなところも実に軽やかですね。

 とはいえ、アルバムの最初と最後に「エピローグ」と「プロローグ」という短いインストゥルメンタル曲が挿入されていて、アルバムらしさが多少表れています。最初に「エピローグ」、最後に「プロローグ」となっていて、ちょっと親父ギャグっぽくて、らしくないといえばらしくない。

 楽曲はデビュー曲にして特大ヒットとなった「夜に駈ける」から、「あの夢をなぞって」、「ハルジオン」、「たぶん」、「群青」、「ハルカ」まで、シングル曲ばかり6曲と、この時点では新曲であり、後にシングル・リリースされた「アンコール」で全7曲です。

 もはやアルバムは器の一つに過ぎませんから、アルバムを作品としてとらえることに意味はなくなってきました。その反面、各楽曲がそれぞれ独立して息長く聴かれるようになっており、このことはデジタル時代の良いところだとしみじみ感じ入る次第です。

 ヨアソビは誕生の経緯からわかる通り、他に作者のいる小説を題材にしてアヤセが曲を作り、イクラが歌うユニットです。ここがまた面白い。自らの熱い主張を歌にするのではなく、世界を俯瞰するように楽曲が出来ているように感じます。とてつもなくクールです。

 そうした世界を表現するにちょうどよい塩梅のアヤセの楽曲を、これまたこれ以上ないクールなボーカリストのイクラが歌う。何か新しいサウンドというわけではありませんが、音楽観に修正を迫る、存在自体が新しいヨアソビなのでした。若者の凄さを実感しました。

The Book / Yoasobi (2021 Yoasobi)



Tracks:
01. Epilogue
02. アンコール
03. ハルジオン
04. あの夢をなぞって
05. たぶん
06. 群青
07. ハルカ
08. 夜に駈ける
09. Prologue

Personnel:
Ayase
ikura : vocal
***
Rockwell : guitar
AssH : guitar
Takeruru : guitar
ぷらそにか : chorus