イエスにはいつも驚かされます。しばらく音沙汰がないと思っていたら、「ロンリー・ハート」です。MTVを見て目を疑った人は私だけではないはずです。いきなり全米ナンバー・ワン・ヒットを引っ提げての復活です。驚きの新作の邦題は当然「ロンリー・ハート」です。

 前作「ドラマ」発表後、イエスはついに解散しました。頻繁にメンバー交代をするバンドでしたけれども、解散はこれが初めてです。解散後、クリス・スクワイアとアラン・ホワイトは二人で活動を続け、スティーヴ・ハウはジェフ・ダウンズとエイジアを結成して大成功しました。

 スクワイアとホワイトはジミー・ペイジとプロジェクトを開始しますがやがて頓挫、今度は南アフリカ出身のギタリスト、トレヴァー・ラビンを迎え、トリオでバンドを結成します。当時、ラビンはEL&Pやエイジアから声がかかるなど、プログレ界のもて男だったようです。

 しかし、トリオに限界を感じたスクワイアは、オリジナル・イエスのトニー・ケイに声をかけ、さらにドラマ・イエスのトレヴァー・ホーンをプロデューサーに迎えます。レコーディングも完成間近の時に、ボーカルが弱いと指摘を受けると、今度はジョン・アンダーソンに声をかけました。

 これではまるでイエスです。ついに彼らはシネマというバンド名まで決めていたにもかかわらず、スポンサーからも要望され、イエスを襲名することにします。この時、ケイはホーンと意見が合わず半ば脱退状態でしたが、襲名するならいた方がよいと復帰することになりました。

 とばっちりを受けたのはエディー・ジョブソンです。ケイの後を受けてバンド入りしていたにも関わらず、イエスじゃないジョブソンは居心地が悪くなって辞めてしまいました。彼の痕跡は「ロンリー・ハート」のMVで確認できます。有名バンドに入るのは面倒くさいことですね。

 そんなイエスですから、本作品はさほどイエスではありません。変な言い方が、昔のイエスの延長上にすんなりと収まっているわけではないということです。むしろ、トレヴァー・ラビンの持ち味が発揮された新バンドの音と言った方が、聴いている方も気が楽だというものです。

 大ヒットした「ロンリー・ハート」は、その中でもイエスらしい楽曲だといえます。もちろんポップさが際立っていますけれども、そこはかとなくプログレ臭のする、プログレ・ハードなディスコ曲という稀有な楽曲となっています。さすがは全米1位、見事な名曲だと思います。

 しかし、本作品全体のサウンドを典型的に表しているのは、「ロンリー・ハート」ではなく、二曲目の「ホールド・オン」です。。こういう曲はこれまでのイエスからは出てきませんでした。プログレ的クールさではなくて、ブルース臭も漂う熱い曲で、ラビンの持ち味がよく分かります。

 その曲のみならず、ラビンのギターはスティーヴ・ハウとは随分違います。スクワイアやホワイトのプレイも以前とは一線を画しているように聴こえます。アンダーソンのボーカルも下界に降りてきました。私はこのアルバムでアンダーソンのの歌のうまさをしみじみ実感しました。

 イエスという名前から逃れて作ったのに、イエスという名前が後から付いてきた面白い作品です。やはり言霊はあるのでしょう。イエスに取りつかれた男たちは、そう簡単にイエスの呪縛から逃れられません。それで傑作ができるのですから、逃れる必要もないのでしょうが。

90125 / Yes (1983 Atco)

*2014年12月3日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Owner Of A Lonely Heart
02. Hold On
03. It Can Happen
04. Changes 変革
05. Cinema
06. Leave It
07. Our Song
08. City Of Love
09. Hearts

Personnel:
Jon Anderson : vocal
Chris Squire : bass
Trevor Rabin : vocal, guitar
Alan White : drums
Tony Kaye : keyboards