ジョン・アンダーソンは不本意な形でイエスを抜けた後、早々に二枚目のソロ・アルバム「七つの詩」を発表しました。老成しているように見えるアンダーソンですが、この頃はまだ30代半ばですから、じっとしているわけにはいかなかったことでしょう。

 ソロ・デビュー作はたった一人で壮大な叙事詩の世界を描き上げたアンダーソンですが、今回はがらりと変わってニュー・ライフ・バンドなるバンドを組んでアルバムを制作しました。アンダーソンはこの作品をサポートするためにソロ・ツアーも敢行しています。

 本作品は「七つの詩」と名付けられていますが、全部で9曲入りです。紛らわしい邦題ですけれども、原題は「ソング・オブ・セヴン」、つまり「七の歌」となっており、もちろん矛盾はありません。セヴンとヘヴンがかかっていると思えば原題に納得がいくかと思います。

 アンダーソンの歌を聴いて天国の歌という言葉を思い浮かべる人は多いのではないでしょうか。ウィーン少年合唱団ではないですが、アンダーソンの浮世離れした清らかなハイトーンには俗世を離れたイメージが強く、そこが彼の大いなる魅力となっています。

 前作とはうって変わって比較的短い曲が9曲収録されている本作品ですけれども、アンダーソンの天上ボイスはもちろん健在です。生々しい感情がむき出しにされることなく、しゅっとした歌声で小さな物語を紡いでいきます。これはこれでアンダーソンの新境地でしょう。

 参加しているミュージシャンはクリームのジャック・ブルースや801を皮切りにブリティッシュ・ロックの重鎮となるサイモン・フィリップス、ハンブル・パイのクレム・クレムソン、ブランドXのジョン・ギブリン、アラン・パーソンズ・プロジェクトのイアン・ベアンソンなど豪華です。

 さらにジャズ界からもディック・モリッシーやジョン・ダンクワースなどを加え、さすがはアンダーソンという人選になっています。中でも最も深く全曲にかかわっているのがキーボードのロニー・レイフィーです。彼は後にナザレスのメンバーとなって活躍するプレイヤーです。

 こうしてみるとイエスからの参加はありません。この頃のアンダーソンとイエスの関係がうかがい知れます。しかも、本作品収録の9曲のうちの実に4曲はイエスのアルバム「トーマト」のために書かれたもので、デモ録音もなされています。

 それを考えると本作品はアンダーソンの「トーマト」への不満を受け止めるアルバムになっているといえます。「トーマト」がリイシューされた際にボートラとして収録されたこれら楽曲のデモを聴くと、イエスとアンダーソンのずれが分かります。

 本作品ではよりトラッドの香りが強いです。アンダーソンの天上ボイスにはやはり妖精の跋扈したケルトの森が似合います。そんな森の中で、アンダーソンはまたまた子どもたちを動員してさらに天上感を高めてきます。天使の羽と花の冠が見えるようです。

 タイトル曲は唯一の大作で、これがまた美しい。イエスのぴんと張り詰めた緊張感あふれる演奏というのではなく、天国の草原でまったりしているイメージが素敵なアルバムです。アンダーソンにはこうした情景もよく似合います。ポップなアンダーソンもいいですね。

Song of Seven / Jon Anderson (1980 Atlantic)



Tracks:
01. For You For Me
02. Some Are Born
03. Don't Forget (Nostalgia)
04. Heart Of The Matter
05. Hear It
06. Eveybody Loves You
07. Take Your Time
08. Days
09. Song Of Seven

Personnel:
Jon Anderson : vocal, guitar, keyboards, harp
***
Ian Bairnson : guitar, bass, chorus
Clem Clempson : guitar
John Giblin, Jack Bruce, Mel : bass
Morris Pert, Simon Phillips : drums, percussion
Ronnie Leahy : keyboards
Damian Anderson : keyboards, voice
Dick Morrissey : sax
Johnny Dankworth : alto sax
Chris Rainbou : chorus
Deborah Anderson : chorus
Jade Anderson : voice
Delmé String Quartet