素直に感動しました。ローリング・ストーンズのオリジナル・アルバムとしては18年ぶりとなる作品「ハックニー・ダイアモンズ」です。チャーリー・ワッツが亡くなってから初めてのアルバムということで、ワッツの逝去によって気合を入れ直したストーンズなのでした。

 何に感動するといって、とにかくこの圧倒的な現役ぶりです。過去を懐かしむような緩さなど一切ありません。メンバー各自の年齢をうんぬんすることすら思いもよらないサウンドの充実ぶりです。大御所でも何でもない、現在を生きているスターです。

 アルバムにはポール・マッカートニーにエルトン・ジョン、スティーヴィー・ワンダーというウルトラ・スーパースターが参加しているのですが、彼らは自らの刻印をうつことなく、完全にセッション・ミュージシャンに徹しています。しかもそれが楽しそう、ストーンズならではです。

 唯一、フィーチャリング・アーティストとしてクレジットされているのはレディー・ガガです。挨拶にスタジオに来たガガが演奏を聴いて歌いだしたことからセッションが実現したとのことで、ストーンズのノンシャランな態度がまたかっこいいですね。

 アルバムはジャスティン・ビーバーやマイリー・サイラスからオジー・オズボーンまで手がける孫といってもいい年齢のアンドリュー・ワットがプロデュースを担当しています。マッカートニーの紹介説とドン・ウォズの紹介説がありますが、本人はとにかく大喜びです。

 この若いプロデューサーが膨大な素材を整理することで、そこからアルバムが次第に姿を表していきます。ここで、ベーシックなトラックに参加しているのは、ストーンズの三人に加えて、ドラムのスティーヴ・ジョーダン、ピアニストのマット・クリフォードです。

 ジョーダンはチャーリーからの紹介で、キース・リチャーズの最初のソロ・アルバムに参加して以来の仲ですから、スタイルは異なるものの、ストーンズの三人との息はぴったりです。無理にワッツの真似をしようとしていないところがいいです。

 チャーリー・ワッツのドラムをフィーチャーした曲も2曲あります。そのうちの1曲にはなんとビル・ワイマンが呼ばれてベースを披露しています。オリジナル・ストーンズのリズム・セクションはこれはこれで格別です。この対比もなかなか乙なものです。

 アルバムはジョーダンのドラムにキースのギターが絡む出だしで始まります。これがストーンズそのものでもありながら、今現在のロック・シーンのサウンドにきちんとなっています。懐古的な匂いは皆無です。そしてミック・ジャガーのボーカルがまた現役そのものです。

 四つ打ちの曲もあれば、パンクな曲もあり、カントリーもあればブルースもある。キースとロン・ウッドのギターも堪能できる。どこからどう聴いてもストーンズそのものです。それなのに断然新しい。70年代の傑作群と比べてもひけをとらない充実ぶりです。

 正直言って、こんな傑作が誕生しようとは思ってもいませんでした。ストーンズにというよりも、ロックそのものにまだ可能性が残っていようとは。だれもが知らず知らずのうちに侵されるエイジズムがいかに愚かかということを思い知らされました。凄いです。

Hackney Diamonds / Rolling Stones (2023 Rolling Stones)



Tracks:
01. Angry
02. Get Close
03. Depending On You
04. Bite My Head Off
05. Whole Wide World
06. Dreamy Skies
07. Mess It Up
08. Live By The Swords
09. Driving Me Too Hard
10. Tell Me Straight
11. Sweet Sounds Of Heaven
12. Rolling Stone Blues
(bonus)
13. Living In A Ghost Town

Personnel:
Mick Jagger : vocal, guitar, percussion, harmonica
Keith Richards : guitar, vocal, bass, piano
Ronnie Wood : guitar, bass, chorus
***
Steve Jordan : drums
Matt Clifford : piano, keyboards
Andrew Watt : bass, chorus, percussion, guitar
Benmont Tench : organ
James King : sax
Ron Blake : trumpet
Karlos Edwards : percussion
Elton John : piano
Paul McCartney : bass
Bill Wyman : bass
Charlie Watts : drums
Lady Gaga : vocal
Charlie Bisharat, Songa Lee, Alysea Park, Sara Parkins, Michele Richards, Tereza Stanislav, Jennifer Takamatsu, Philip Vaiman : violin
Lukke Maurerr, Tom Lee : viola
Jacob Braun, Paula Hochhalter : cello
David Campbell : string arrangement
Suzie Kaytayama : conductor