スティーヴ・ハウの二枚目となるソロ・アルバム、その名も「スティーヴ・ハウ・アルバム」です。発表された時期はイエスでいえば「トーマト」の後、「ドラマ」の前です。ハウの個人史でいえば、イエスを脱退してエイジア結成に参加する前のことです。

 前作はイエスのメンバー全員がソロ・アルバムを制作する企画の一環でしたけれども、今回は純然たるハウのソロ・アルバムです。バンドが方向性を見失いつつあった時期に、自分と向き合って、心の趣くままに制作したアルバム、そんな風情です。

 その結果として出来上がったアルバムはギタリストによるギターのための作品です。ハウは、フリー・インプロビゼーションの第一人者デレク・ベイリーがさまざまなジャンルのギタリストと「即興」について語り合った際、ロック代表として選ばれた人です。ギターの申し子です。

 スティーヴ・ハウは、数多いロック・ギタリストの中でも、ギターが自己表現の手段ではなく、ギター自体が目的となっている数少ないギタリストだと思います。ギターで何かを表現しようとするのではなく、とにかくギターを弾くことが目的だという人ではないでしょうか。

 前作では全面的にあまり上手とはいえないボーカルを披露していましたが、本作品では自分のボーカルは1曲のみであり、そもそもボーカル曲もあと1曲、ゲストとして英国のフォーク歌手クレア・ハミルが歌う「ルック・オーバー・ユア・ショルダー」のみです。

 本作品ではそれよりもとにかくギターです。内ジャケットには使用した14種類ものギターがカタログのように写真付きで紹介されており、どの曲でどのギターを使ったかがしっかり記載されています。これだけで世のギター小僧たちはよだれを垂らすのではないでしょうか。

 使われているのは、スパニッシュ・ギターやマーチンのアコ‐スティック・ギター、レス・ポール、フェンダーのストラトキャスター、テレキャスターに加えて、エレクトリック・シタールやマンドリンやペダル・スティール・ギター、バンジョーなどさまざまです。楽しそうです。

 A面はドラムなどを交えたロック・サイド、B面はソロやオーケストラとの共演、はたまたビバルディの曲を取り上げるなどクラシカル・サイドに一応分かれています。しかし、ロック・サイドといえども、スパニッシュやクラシックも入っていて、全体にロック色は希薄です。

 参加しているのはアラン・ホワイトやパトリック・モラーツ、ビル・ブルーフォードのイエスゆかりのミュージシャン、元ジェスロ・タルのクライヴ・バンカー、ジョン・アンダーソンのソロにも参加したロニー・レイフィなどで、その数は限られています。

 オーケストラはクリス・スクワイアのソロに協力していたアンドリュー・ジャックマンが担当しています。59人ものオーケストラと共演するハウの写真が内ジャケットに挿入されていますが、なんと1曲のみ。贅沢なことです。ハウの端正なギターがしっかりかみ合っています。

 ジャケットはもちろんロジャー・ディーンです。湖に裸の男が浮かんでいる剣呑な絵ですけれども、サウンドは謎めいているというよりも、隅々まで明るく照らされていて、屈託がありません。ハウの端正なギターがこれほど大活躍するアルバムもそうありません。素敵な作品です。

The Steve Howe Album / Steve Howe (1979 Atlantic)

*2011年11月27日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Pennants 優勝旗
02. Cactus Boogie
03. All's A Chord 宇宙の調和
04. Diary Of A Man Who Disappeared 消えた男の日記
05. Look Over Your Shoulder
06. Meadow Rag
07. The Continental
08. Surface Tension 表面張力
09. Double Rond
10. Concerto In D (2nd Movement) ギター協奏曲ニ長調第二楽章

Personnel:
Steve Howe : guitar, bass, vocal
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Claire Hamill : vocal
Patrick Moraz : keyboards
Alan White, Bill Bruford : drums
Graham Presket : violin
Clive Bunker : percussion
Ronnie Leahy : hammond organ
Andrew Jackman : orchestration