土屋昌巳のソロとしては初めてのアルバム「ライス・ミュージック」です。発表されたのは1982年6月のことです。この発表時期はとても重要です。それというのも土屋の名前は1か月後に発表された「すみれSeptember Love」で一躍有名になったからです。

 土屋はりりぃや大橋純子のバックバンドを経て、後に美空ひばりの「川の流れのように」を作曲する見岳章らとともに一風堂を結成して音楽活動を行っていました。一風堂は渋い活動を続けていましたが、一般にはかの曲をもって名前が知れわたることになります。

 本作品はその大ブレイク前の作品ですから、当然一風堂人気をあてこんだものではありません。これほど有名になったのは一風堂の知名度によるものではありますが、本作品自体はそんな事情とはまったく異なる面白い経緯でもって制作されています。

 きっかけになったのは、イギリスのバンド、ジャパンの来日です。プラスチックスの後継バンド、メロンのライヴで土屋はジャパンのメンバーと出会います。そこでお互いがファンであることを知った土屋はその場で共同作業を思い立ち、それが本作品につながりました。

 したがって本作品にはジャパンのメンバーだったスティーヴ・ジャンセンとミック・カーンが全面的に参加しています。まさに共同作業です。さらにメロンのライヴにも参加した変態ベーシスト、パーシー・ジョーンズと元ビ・バップ・デラックスのビル・ネルソンも参加しています。

 このため、私は当時本作品を隠れジャパンのアルバムと捉えていました。後に土屋がジャパンのツアーに参加するのも納得です。ジョーンズがベースを弾いている曲も多いのですが、彼のベースは明らかにカーンに影響を与えているので、ジャパンの香りが濃厚です。

 日本からの参加はボーカル回りでメロンの中西俊夫とコーラスにEVEを含めた三人、コンピューター・プログラミングに松武秀樹、パーカッションの仙波清彦と極めて数が限られています。ただし、「KAFKA」1曲だけは土屋と坂本龍一によるセッションで出来ています。

 面白いのはジャケットも撮影した写真家鋤田正義のゲスト参加です。鋤田の担当は「ポラロイドSX-70、オリンパスOM-2」となっており、しっかりとそのシャッター音と巻き上げ音で演奏しています。「シークレット・パーティー」がその楽曲です。

 仙波は和太鼓や鼓などで参加しています。「ライス・ミュージック」というタイトルが示す通り、本作品には和の空気が充満しており、その流れに棹をさしているのが仙波のプレイであることは言を俟ちません。ジャパンっぽいサウンドで和の空気という何やら頓智話のようですね。

 土屋は西洋に対するコンプレックスを克服し、東洋人であることが個性であり強みであることを自覚したとしており、「せっせっせっ」や沖縄風の「ハイナ・ハイラ」など、エキゾチック・ジャパンを正面から捉えたサウンドをモダンなサウンドに昇華することに成功しています。

 鋤田の写真を使ったジャケットには背景に米粒が敷き詰められています。意識したのかしないのか、遅れて発表されたジャパンの「錻力の太鼓」のジャケットとの類似性が際立ちます。そんな意味でも日本のロック史に特異な位置を占める孤高のアルバムであります。

Rice Music / Masami Tsuchiya (1982 ソニー)



Tracks:
01. Rice Music
02. せっせっせっ
03. Haina-Haila
04. Neo-Rice Music
06. Kafka
07. Rice Dog Jam
08. Secret Party
09. Silent Object
10. Night In The Park

Personnel:
土屋昌巳 : guitar, vocal, synthesizer, drums, bass, percussion, 琴, etc.
Bill Nelson : guitar
Mic Karn : bass, alto sax
Percy Jones : bass
仙波清彦 : percussion
松武秀樹 : programming
中西俊夫 : voice
鋤田正義 : camera
Eve, ナチコ、ヨーコ : chorus
坂本龍一 : voice, synthesizer, drums, bass, pianica (06 only)