いよいよイエスも80年代に突入しました。そして、80年代最初の作品「ドラマ」にはとにかく驚かされました。メンバー交代が日常茶飯事なバンドでしたけれども、まさか「ラジオスターの悲劇」のバグルスと合体するとは誰が想像できたでしょうか。

 イエスは前作発表後に大々的なアメリカ・ツアーを行ったばかりでなく、短いオフを挟んでデビュー10周年記念ツアーも敢行しています。しかし、新作の制作に取り掛かると、ジョン・アンダーソンとリック・ウェイクマンがいなくなってしまいました。

 クリス・スクワイアとアラン・ホワイトがパンク/ニュー・ウェイブに走ったからで、ジョンは「僕はパンクになりたくない、こんなのはイエスじゃない」とまで言っています。正式な脱退表明もなく、二人がいなくなった隙にバグルスと合体したというのが真相のようです。

 マネージャーが一緒だったというお手軽な理由もあってバグルスなわけですが、彼らはもともとイエスが好きだったそうですし、その作品は「イエスに似ている」と言われたこともあったようで、後知恵で聴いてみますと、確かにイエスと相性が良さそうに思えます。

 出来上がったのは実にイエスらしい作品でした。皮肉で言っているわけではありません。合体の事情からして、バグルスの二人はゲストなのかメンバーなのか不分明な状況ですし、当時はアーティストの格が違いましたから、二人はイエスを演じることを使命としたと思います。

 ファンの思うイエスらしさというのは、本人たちが思うイエスらしさよりも、イエスらしいです。トレバー・ホーンのボーカルからして、アンダーソンを意識していることが丸わかりです。ジェフ・ダウンズのキーボードはウェイクマンとは随分違いますが、彼よりもイエスらしい。

 さらにイエスらしいサウンドの立役者として、イエス黄金期を支えたエディー・オフォードの名を忘れるわけにはいきません。久しぶりに彼がベーシック・トラックを録音したんです。それにジャケット。やはりロジャー・ディーンじゃないといけません。

 というわけで、一歩間違うとまるでイエスのパロディーのようになりかねないところですが、彼らは見事に踏みとどまって、傑作をものしました。イギリスではチャートの2位に輝くという大ヒットです。この時点では「海洋地形学の物語」「究極」の1位に続く成績です。

 イエスらしいとは言っても、「危機」の頃の大作志向時代とは違って、「究極」以降のポップ路線がベースではあります。そこは成功です。こういうポップをやらせれば、オリジナル・イエスの面々よりもバグルス組に軍配があがります。そのバランスがいいんです。

 私の一押しはバグルス組の曲「レンズの中へ」です。これはそのバランスがとてもうまく行っている好例です。構成から何からイエスのエッセンスを凝縮した作品で、そこにバグルス組のポップ感覚が花を添えます。バグルスだけによる演奏よりもこちらの方が断然素敵です。

 最後の曲「光陰矢の如し」では、♪イエス♪、♪イエス♪と力強く連呼しています。意訳すると♪これでいいのだ♪とバカボンパパになります。もう何が起こっても驚かないぞと思わせてくれる曲です。イエス、恐るべし。この作品、私はイエスの作品の中で一番好きです。

Drama / Yes (1980 Atlantic)

*2014年12月1日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Machine Messiah
02. White Car 白い車
03. Does It Really Happen? 夢の出来事
04. Into The Lens レンズの中へ
05. Run Through The Light 光を越えて
06. Tempus Fugit 光陰矢の如し

Personnel:
Trevor Horn : vocal, bass
Steve Howe : guitar
Chris Squire : bass, chorus, piano
Geoff Downes : keyboards
Alan White : drums, percussion, chorus