「究極」が初めてラジオから流れてきた時のことを今でも覚えています。その何だか吹っ切れたような溌剌としたサウンドにびっくりしました。ジョン・アンダーソンも、スティーヴ・ハウも、クリス・スクワイアも、アラン・ホワイトも、リック・ウェイクマンも、皆が喜びに満ちていました。

 時はパンク・ムーヴメント真っ盛りで、プログレッシブ・ロックそのものが否定される音楽であった時代です。そして、バンドとしてのイエスにしても、前作から2年半のブランクがあり、その間、各自がソロで活動していましたから、もはや半ば忘れられていました。

 そんな中で、新作として発表されたのが「究極」です。最初に不意を突かれる形でラジオで聴いたのは幸運でした。イエスの新作を買ってきて、針を下ろし、解説を読みながら正座して聴いたとしたら、そういう感想にはならなかったと思います。

 ジャケットからして、ロジャー・ディーンと一旦お別れして、ピンク・フロイドで有名なヒプノシスの作品に代わりました。新生イエスの誕生だと言う決意が漲っています。ジャケットの意味あいはよく分かりませんが、少なくともこの地球上の話であることは分かります。

 新生イエスとは言え、この作品にはリック・ウェイクマンが復帰しています。パトリック・モラーツはソロも成功していましたし、本作制作に先立って脱退してしまいます。新らたに入ってすぐに活動中止、2年もほっておかれたら、あまりやる気にもならないでしょう。

 代わりに白羽の矢が立ったのがウェイクマンだったということで、彼が参加するころには曲の大半は出来ていたのか、契約の理由か分かりませんが、作曲のクレジットに彼の名前はありません。しかし、キーボードの活躍は結構目立ちます。楽しそうです。

 この作品は英国では1位となりました。英国のヒット・チャートは節操がないので、この年はエルビス・プレスリーとかコニー・フランシスとかのベスト盤が1位となっていますが、同じ年にセックス・ピストルズが1位になっていることを思うとちょっと感慨深いです。

 この作品は、全5曲となっていますが、最後の「悟りの境地」が長尺であることを除けば、比較的短い曲ばかりで構成されています。久しぶりに大作主義から少し離れて、ストレートにポップな楽曲で構成してみたというところでしょう。そんなところも新境地。

 冒頭の「究極」で喜びを爆発させた後、「世紀の曲がり角」でアコースティックをかまし、「パラレルは宝」でアグレッシブな顔を見せます。そして、シングル・ヒットした「不思議なお話を」でトラッド風な柔らかさで攻め、「悟りの境地」を昔からのファンへのサービスとして締めます。

 前半部分は、昔からのイエス・ファンには評判が決して良い訳ではありません。冒頭の荒っぽいギターなどあり得ないと思われていたことでしょう。しかし、全体を通して聴くと、ごく初期のアルバムとも自然につながっていると思います。スウィートの復活です。

 私はイエスのアルバムの中でも、このアルバムは結構好きです。もともと難解な音楽をやる人たちではありませんから、こうした分かりやすい展開は本来の姿ではないかと思います。こんなにみんなが楽しそうなイエスは久しぶりです。復活の歓びです。

Going For The One / Yes (1977 Atlantic)

*2014年11月27日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Going For The One 究極
02. Turn Of The Century 世紀の曲がり角
03. Paralells パラレルは宝
04. Wonderous Stories 不思議なお話を
05. Awaken 悟りの境地

Personnel:
Jon Anderson : vocal
Chris Squire : bass, vocal
Rick Wakeman : keyboards
Steve Howe : guitar, vocal
Alan White : drums, percussion