ロキシー・ミュージックの中心人物3人のうちの二人、フィル・マンザネラとアンディ・マッケイによる全編インストゥルメンタルのアルバム「AM・PM」です。発表は2023年10月、もはや二人は50年以上に及ぶ共犯関係を築いています。天晴です。

 2019年にロキシンフォニーのツアーを中止した際、アンディ・マッケイは健康上の理由でもはや表舞台から引退するしかないと伝えられていました。そのことを考えると、その後のロキシー・ミュージック50周年ツアーへの参加と本作品の発表は慶賀の至りです。

 この作品はコロナ禍が生んだ作品の一つです。ロックダウンの最中、マンザネラはこれまた長年のコラボレーター、ティム・フィンと曲づくりに励んでいました。その際に、即興を主体とするインストゥルメンタル曲をやってみたいと思ったのが発端です。

 さっそく気心のしれたマッケイに電話したところ、二人は意気投合し、本作品の制作が始まりました。もちろん作り始めた頃はロックダウン中ですから、集まってセッションなどはできるわけもなく、作品はお互いがデータをやり取りしながら出来上がっていきました。

 事前に曲を書いたりすることは一切なく、マンザネラがマッケイに何らかのサウンドを送ると、マッケイがそれを聴いて即興でサックスなりなんなりを重ねて送り返す。そんなやり取りを重ねていきます。どこへたどり着くのか分からない旅です。

 ただし、本作品の制作途上でロックダウンは明け、マンザネラとマッケイは二人そろってロキシー・ミュージックの50周年ツアーに参加しています。マッケイが十分に回復していることを知ったマンザネラは二人でセッションを行い、音を加えることを提案します。

 その際、ツアーに参加していたポール・トンプソンにも声をかけて、数日間にわたるセッションが行われました。これもまた即興で行われています。ここでの成果もまた、他の音源と同じように扱われ、本作品の構成要素の一つとなっていきます。

 また、レバノンのフリューゲル・ホーン奏者ヤズ・アフメッド、バイオリンのアンナ・フィーブ、フルートのセス・スコット、まだ18歳のチューバ奏者ジョージ・グッドの四人に参加を要請しています。四人もそれぞれ送られてきた音源に即興で演奏を加えるよう要請されました。

 プロセスで分かる通り、本作品はマンザネラ主導で進んでいます。そのため、ユニット名はマンザネラ・マッケイです。マンザネラはスタジオに座り込んで、編集の限りを尽くし、時にはさらに演奏を加えるなどして、曲を仕上げていきました。

 出来上がった作品は典型的なロックでもありませんし、ジャズでもない。現代音楽でもないし、アンビエントでもない。ギターとサックスなどが活躍するのですが、何とも形容しがたいサウンドです。それでいてロキシーの顔がのぞくなどしてポップでもあります。

 50年に及ぶコラボレーションで息もぴったりの二人です。あてのない旅をスタートさせても、結果的には得も言われぬ美しい場所にたどり着きます。マンザネラは本作品をそのように形容しています。そんな場所に居合わせることができるとはなんと幸せなことでしょうか。

AM・PM / Manzanera Mackay (2023 BFD)



Tracks:
01. Blue Skies
02. Mat 1
03. Yazz
04. EGM
05. Ambiente
06. Newanna
07. CC
08. Ambulante
09. Seth

Personnel:
Andy Mackay : sax
Phil Manzanera : guitar
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Anna Phoebe : violin
Seth Scott : flute
George Goode : tuba
Paul Thompson : drums
Yazz Ahmed : flugelhorn
Mike Boddy : bass, programming, keyboards