前作「官能の饗宴」で復活を遂げたスパークスの次なるアルバムはセルフ・カバー集になりました。題して「プレイジャリズム~盗作の世界」です。何とも皮肉な題名です。正真正銘自分たちのオリジナルなのに「盗作」、スパークスらしい題名の選び方だと思います。

 タイトルの皮肉からも分かる通り、ロンとラッセルのメイル兄弟にとって本作品の企画は不本意なものでした。ロンは本作品を「もっと強ければ受けなかった」企画だと後に告白しています。常に前しか向いていないスパークスにレトロスペクティブは似合いません。

 雄々しく復活したスパークスですけれども、すでにして6年のブランクがありましたし、大ヒットを飛ばしていた頃からは十数年のギャップがありますから、過去のスパークスの名曲の数々を聴いたことがない若い人も多い。そんな説得にスパークスは譲ってしまいました。

 とはいえ、普通のベスト盤ではなく、壮大なオーケストレーションを加えるなどして、名曲の数々を再構築してみせたところにスパークスの矜持が感じられます。この頃には多くのベスト盤が勝手に発売されていましたから、単なるベストというわけには行かなかったでしょうし。

 ジャケットがまたいいです。ロンとラッセルのメイル兄弟がむきむきのボディになっています。楽曲群もオーケストラで筋肉がついているわけですから、サウンドをそのまま表現したコンセプトということができます。いつもながら皮肉がきいていて最高です。

 選ばれた楽曲はスパークスの過去カタログからで、ほとんどが有名曲です。このうちの多くのトラックにはオーケストラとコーラス隊が加わっていて壮大な展開をみせてくれます。このアレンジを担当したのはあの懐かしいトニー・ヴィスコンティです。

 そして、「ディス・タウン」と「ザ・ナンバー・ワン・ソング・イン・ヘヴン」は2回ずつ収録されていて、そのうちの1曲は他のアーティストとのコラボレーションです。前者はフェイス・ノー・モア、後者はジミー・ソマーヴィルとのコラボが楽しめます。

 特にオペラチックなボーカルで有名な元ブロンスキ・ビートのソマーヴィルは曲にこれ以上ないくらいぴったりと合った、天上から降ってくるようなボーカルを披露しています。アルバムから最初にシングル・カットされて、少々ヒットしました。美しいです。

 アメリカのオルタナ系の先がけとされるフェイス・ノー・モアは「ディス・タウン」の他に「サムシング・フォー・ザ・ガール」でも共演しています。同じ西海岸のアーティストだからというのもあるでしょうが、スパークスがオルタナにも影響を与えている、という方がしっくりきます。

 共演はもう1曲、自らスパークスの影響を広言しているイレイジャーとの「アマチュア・アワー」です。イレイジャーらしいシンセ・ビートとの相性は抜群で、いかにスパークスが時代を先取りしていたかが分かる、敬愛の念に満ちた演奏が素敵です。

 奇矯なものはありませんが、実に緻密に練られたアレンジがなされており、スパークスの楽曲の地力の強さを再確認することができます。オリジナルもここでの再演もどちらも時代を越えており、新鮮さでは譲りません。オールド・ファンには嬉しい贈り物ではあります。

Plagiarism / Sparks (1997 Oglio)



Tracks:
01. Pulling Rabbits Out Of A Hat
02. This Town Ain't Big Enough For Both Of Us
03. No. 1 Song In Heaven (Part Two)
04. Funny Face
05. When Do I Get To Sing 'My Way' 麗しのマイ・ウェイ
06. Angst In My Pants パンツの中の用心棒
07. Change
08. Popularity
09. Something For The Girl With Everything
10. This Town Ain't Big Enough For Both Of Us (with Faith No More)
11. Beat The Clock
12. Big Brass Ring
13. Amateur Hour (with Erasure)
14. Propaganda
15. When I'm With You
16. Something For The Girl With Everything (with Faith No More)
17. Orchestral Collage
18. The Number One Song In Heaven (with Jimmy Somerville)
19. Never Turn Your Back On Mother Earth 家には帰れない

Personnel:
Russell Mael : vocal
Ron Mael : keyboards
***
Metro Voices : chorus
Dean Menta : guitar
Tony Visconti : conductor
Faith No More
Erasure
Jimmy Sommerville : vocal