フランク・ザッパ先生が制作した超大作「レザー」をワーナー・ブラザーズが勝手に切り分けて発売するというとんでも企画の第二弾「スタジオ・タン」です。前作は一応の相談らしきものがあったようですが、本作からはまるで無断で発表されたらしいです。

 それにしては素敵なジャケットです。描いたのはゲイリー・パンター、パンク時代のピカソともいわれる画家で、アメコミ・スタイルの絵が素敵でした。キース・へリングなどと並んで日本でも大いに人気を博しましたから、ご存じの方も多いはずです。

 もちろん、本作品は今では公式リリース第24弾として認定されています。ただし、昇格にあたって、曲順は変わりましたし、アルバムの半分を占める「グレゴリー・ペッカリー」などはミックス違いになりました。さらに曲のタイトルも一部変更されています。

 アルバムはその「グレゴリー・ペッカリー」から始まります。これは、テキサスとパラグアイの中間に住んでいる子豚のグレゴリー・ペッカリーちゃんの冒険を語った歌です。「LAからやってきたバンド」収録の「ビリー・ザ・マウンテン」に並ぶ長尺の語り物です。

 演奏しているのは、「ロキシー&エルズウェア」の頃と同じメンバーです。ジョージ・デューク、ブルースとトムのファウラー兄弟、チェスター・トンプソンにザッパ先生を加えた5人です。語りは先生とデュークの二人。お話の内容は相変わらずよく分かりません。

 楽曲はボードヴィル調ではなく、現代音楽風のアンサンブルです。そこここに、「ビリー・ザ・マウンテン」を始め、おなじみのメロディーが顔を出したりして飽きさせません。展開が目まぐるしいんですよね。この楽曲もファンの間ではとても人気の高い曲の一つです。

 二曲目は「ギターと予算不足のオーケストラのために改訂された音楽」です。LPではこれは三曲目でした。1曲目と同じメンバーによる録音にミックスされた上での変更です。もともとはバイオリンのジャン・リュック・ポンティのために書かれた曲だそうです。

 イントロはなじみが深いと思ったら、名作「ホット・ラッツ」の中の曲の旋律をそのまま使っています。歌はありませんが、デュークのピアノも大活躍して、エレクトリック・チェンバー・オーケストラ的な素晴らしい楽曲です。隠れた名曲といえるでしょう。

 3曲目が一転してポップで徹底的におバカな「海へ行こうよ」です。ここで、狂気のボンゴを叩いているのは、グランド・ファンク・レイルロードのドラマー、ドン・ブリューワーです。ジャストなリズムが妙にかっこいい曲で、私はもうこの曲が大好きで大好きで。

 最後は「RDNZL」という曲で、LP時代は「Redunzl」という曲名でした。先生、ジョージ・デューク、ジェイムズ・ヨウマン、ルース・アンダーウッド、チェスター・トンプソンの5人での演奏で、これも名曲ですよね。ザッパさんの長いギター・ソロが素晴らしいです。

 全体に現代音楽的なロック室内楽で、黒っぽさが薄れているところが評価の分かれるところです。私はどっちも好きなので、関係ないですが。ルースのパーカッションがやっぱり素敵。無断で出したわりには、アルバムとしてのまとまりも素晴らしい、隠れ傑作です。

Studio Tan / Frank Zappa (1978 DiscReet) #024

*2012年12月9日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. The Adventures Of Greggery Peccary
02. Revised Music For Guitar And Low-Budget Orchestra ギターと予算不足のオーケストラのために改訂された音楽
03. Lemme Take You To The Beach 海へ行こうよ
04. RDNZL

Personnel:
Frank Zappa : guitar, vocals, percussion
George Duke : keyboards, vocals
Bruce Fowler : trombone
Tom Fowler : bass
Chester Thompson : drums
Davey Moire : vocals
Eddie Jobson : keyboards, yodelling
Max Bennett : bass
Paul Humphrey : drums
Don Brewer : bongos
James "Bird Legs" Youman : bass
Ruth Underwood : percussion, synthesizer