イエスのベーシスト、クリス・スクワイアによるソロ・アルバム「未知への飛翔」です。メンバーそれぞれがソロ・アルバムを制作する企画に沿ったアルバムで、スティーヴ・ハウの「ビギニングス」に続く第二弾として発表されました。

 原題は「フィッシュ・アウト・オブ・ウォーター」、水から飛び出した魚です。なんでもスクワイアは長風呂だったのであだ名がフィッシュ、魚なんだそうです。その魚がイエスを飛び出てソロ・アルバムを制作する、そんな意味合いでしょう。確かに未知への飛翔ですね。

 スクワイアは長いキャリアの中でソロ・アルバムは本作を含む2枚だけですし、他のメンバーに比べると他流試合の数も極端に少ないです。スクワイアこそがイエス、イエスこそスクワイアであると言えるのではないでしょうか。スクワイアのベースがイエスの要でしょう。

 本作品を制作するにあたって、まずスクワイアが声を掛けたのは、スクワイアがイエスを結成する前に在籍していたザ・シンの盟友アンドリュー・プライス・ジャックマンで、彼は本作品でピアノとオーケストレーションを担当しているだけではなく、曲作りにも貢献しています。

 加えてドラムには元イエスのビル・ブルーフォード、ベース・シンセサイザーとオルガンに現役イエスのパトリック・モラーツです。ここにメル・コリンズやジミー・ヘイスティングスなどの英国プログレ勢がサックスやフルートで色を添える、そんな構成です。

 アルバムは「ホールド・アウト・ユア・ハンド」で始まります。この曲にはセント・ポール大聖堂のオルガニスト、バリー・ローズのパイプ・オルガンがフィーチャーされています。スクワイアとジャックマンは幼少の頃に聖歌隊に参加しており、ローズはその頃からの知り合いです。

 この曲ではいきなりスクワイアのボーカルが披露され、これにまず驚かされます。何に驚くかって、一瞬、ジョン・アンダーソンか思わされるんです。歌メロと声の重ね方などまるでイエスですし、声質までアンダーソンにそっくり。スクワイアはアンダーソンが好きなんでしょうね。

 このパイプ・オルガンやモラーツの弾くオルガン、ジャックマンのピアノなどもリック・ウェイクマンを思わせてくれます。正確にはイエスで演奏しているウェイクマンです。そんなわけですから、このアルバムは強烈にイエスのサウンドを思い起こさせます。

 ただし、ここにはギターがほとんど使われていませんし、非イエス要素としてコリンズとヘイスティングスの管楽器が活躍しています。おそらくイエスのアルバムと並べてしまえば、違いは明らかなのでしょうが、それでも本作品にはイエスを意識せざるをえません。

 やはりスクワイアこそイエスの背骨なんでしょう。ここでも彼のベースは強烈な存在感を放っていますが、あえてイエスとは異なる演奏をしているようにも思います。しかし、そうすればするほど、スクワイアこそイエスだと感じてしまいます。これは誇るべきことでしょうね。

 ジャケットはロジャー・ディーンではありませんけれども、アルバムはとても充実しており、これまたスティーヴ・ハウのソロ・アルバムと同様のヒットを記録しています。この後、長らくソロ・アルバムを封印してしまったのは残念ですが、イエス=スクワイアならば当然ですね。

Fish Out Of Water / Chris Squire (1975 Atlantic)



Tracks:
01. Hold Out Your Hand
02. You By My Side
03. Silently Falling
04. Lucky Seven
05. Safe (Canon Song)

Personnel:
Chris Squire : vocal, bass, guitar, drums
***
Bill Bruford : drums, percussion
Mel Collins : sax
Jimmy Hastings : flute
Patrick Moraz : bass synthesizer, organ
Barry Rose : pipe organ
Andrew Pryce Jackman : piano, orchestration
Julian Gaillard : strings leader
John Wilbraham : brass leader
Jimu Buck : horns leader
Adrian Bett : woodwinds leader
Nikki Squire : chorus
Alan White : drums