「アーサー王と円卓の騎士たち」はイギリスでは何の注釈もなく引用される国民的なお話です。舞台は5世紀末ごろの英国ですから、日本でいえば古事記や日本書紀に相当します。とすればヤマトタケルやスサノオノミコトあたりのお話に近いでしょうか。

 リック・ウェイクマンのソロ三部作の最後はそのイギリスの国民的な伝説を素材にしたコンセプト・アルバムです。今回はインストでもなく、ストーリーを説明するナレーションも入りません。ストレートに歌と演奏で物語を紡いでいく、最もミュージカルらしい作品です。

 ウェイクマンのロック・バンドを中心にイングリッシュ・チェンバー・クワイアやオーケストラ、さらにはノッティンガム・フェスティヴァル・ヴォーカル・グループを交えた大所帯の演奏です。キーボード奏者のソロにしては、随分と周りの人が活躍するアルバムです。

 前作のファミリー・エンターテインメントぶりからは少し大人向けのサウンドに変わりました。しかし、この作品を引っ提げて、リックはまたまたやってくれました。ウェンブリー・エンパイア・プールにて何とアイス・ショーとのコラボレーションをやってくれたんです。

 氷のスケート・リンクの真ん中にオーケストラや合唱団を含む大勢のミュージシャンが並び、そのまわりを20人近いスケーターが踊ります。これも日本のテレビでオン・エアーされまして、私もリアル・タイムで見ました。壮大な世界が演出されていて圧巻でした。

 プログレとアイス・ショーの組み合わせには最初は違和感が拭えませんでしたが、文句なく面白いショーでした。ただ、コストがかかりすぎて、興行的には大成功という訳にはいかず、ウェイクマンは財務的に困難な状態になってしまったということです。

 アルバムのサウンドは、プログレらしいプログレであることは間違いありませんが、幾分、普通のロック作品に近づいてきました。オケや合唱も入っていながらも、前作とは違って、ロック・バンドが中心ですし、曲の構造がポップなプログレっぽくなりました。

 私は一曲目の「アーサー王」が大好きです。大変親切な説明的歌詞を持つこの曲の壮大なテーマは、アルバムの後半でも出てきますから、作品全体を貫く主題だと言ってよいでしょう。このバンドのヴォーカルは今一つという評判なんですが、この曲にはよく合います。

 このアルバムはリアル・タイムで姉が購入したので、よく隠れて聴いていたものです。しかし、そういう事情なものですから、1曲目だけ聴いたことが多くて、通して聴いたことがさほどないという、コンセプト・アルバムに対して失礼な聴き方をしていました。

 そんな不幸な事情から、今でもアルバム全体を聴き通すと、1曲目とそれ以降との落差が激しくて眩暈がします。そのため、どうもまとまりを欠く印象を勝手にもってしまっています。1曲1曲はよく練られていて、いい曲ばかりなんですけれども。よくないですね。

 キーボードの魔術師リック・ウェイクマンのキーボードは速弾きで手数が多いです。そんなところがとてもエンターテインメント的だと思います。アイス・ショーを思い浮かべて聴くととても楽しい作品です。やはりこの人は根っからのエンターテイナーです。

The Myths and Legends of King Arthur and Knights of the Round Table / Rick Wakeman (1975 A&M)

*2013年12月19日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Arthur アーサー王
02. Lady Of The Lake 湖の妖精
03. Guinevere 王妃グイネヴィア
04. Sir Lancelot And The Black Knight 湖の騎士ラーンスロットと黒騎士
05. Merlin The Magician 魔術師マーリン
06. Sir Galahad 騎士ガラハド
07. The Last Battle 最後の戦い

Personnel:
Rick Wakeman : keyboards
***
Ashley Holt : vocal
Gary Pickford Hopkins : vocal
Jeffray Crampton : guitar
Roger Newell : bass
Barney James : drums
John Hodson : percussion
New World Orchestra
The English Chamber Choir
David Measham : conductor
Terry Taplin : narration